Skip to main content

あれから10年
実践のなかで、
考え続ける歯科医師

CG院長インタビュー:アップデンタルセンター畑先生インタビュー

2017年、Communication Gear『Break through 歯科医師の熱量』で、アップルデンタルセンターの畑慎太郎先生に話を聞いた。予防型歯科医院への転換、スタッフ教育、専門医との連携、クラウドサービス、そして10年後の歯科界。当時の畑先生は、歯科医療の新しい価値を社会と生活者へ届けようとしていた。

このおよそ10年間、畑先生は、さまざまなMTM関連セミナーで講師を務める一方、熊谷崇先生から直接学び、発表や議論を重ねる機会にも恵まれてきた。自院でMTMを実践し、その経験を伝え続けた現在は、MTMの育成にも携わり、一般社団法人ジャパン・オーラル・フィジシャンフォーラム(JOF)の理事長も務めている。

一方、自院で実践してきたことを仲間や次の世代、一般社会へ伝える試みは、順調に広がっているわけではない。10年前の言葉を現在の畑先生はどう読み、何を変え、何を変えずにきたのか。その歩みを改めて聞いた。

診療にあたる畑慎太郎先生

変わらない軸、変わった向き合い方

2017年当時、畑先生が熊谷崇先生から直接学ぶ機会は、現在ほど多くなかった。その後の10年間、畑先生は熊谷先生と折に触れて学び、発表や議論の時間を重ねてきた。その時間を経て、当時の自分の言葉をどう読むのか。まず、考え方の軸に変化があったのかを尋ねた。

――10年前のインタビューを読み返して、今の自分から見て「よく言った」と思う部分と、「若かったな」と思う部分はどこですか。

基本的な考え方は、今もそれほど変わっていません。
歯科医療は、悪くなった歯を治すだけでなく、なぜ悪くなったのかを考え、患者さんと一緒にこれからを考えるものだと思っています。一方で、当時は、自分が正しいと思うことを、どうすれば周囲に理解してもらえるかという意識が強かったかもしれません。

この10年間で感じたのは、人も環境も違うので、伝えれば誰もが同じようにできるわけではないということです。最近は、無理なものは無理、と諦めるようにもなりました(笑)。相手を変えようとするより、できることとできないことを見極める。少し肩の力が抜けたのかもしれません。

メディカルトリートメントモデルを実践する意義をスタッフと来院者で共有

守り、実践し、問い直す

畑先生がMTMを学ぶ大きな契機となったのが、2012年の日吉歯科診療所での育成セミナーだった。熊谷先生から学んだ歯科医師の中には、日吉歯科診療所のように規模を拡大し、多くの歯科衛生士を雇用する体制を築いた人もいる。一方、畑先生は、自院を取り巻く環境や時代の変化に合わせ、中規模の診療所で質を高める道を選んできた。

――10年前の熊谷先生はどのような存在でしたか。そして今はどうでしょうか。当時はピンと来なかった言葉で、今になって腑に落ちたものはありますか。

2012年に日吉歯科の育成セミナーを受講したとき、診療所に流れている、あの静謐な空気感が印象に残っています。予防の知識や技術だけでなく、考え方が診療の仕組みやスタッフの振る舞い、患者さんとの関係にまで表れていることに驚きました。

当時はピンと来なかった言葉、というのは、正直あまり思い当たりません。ただ、今になって改めて感じることはあります。

熊谷先生のすごさは、MTMという診療の仕組みを確立したことだけではありません。医院の中にとどまらず、歯科医療を社会とどうつなげるかを考え、企業やさまざまな人を巻き込みながら、その価値を広げていく。そうした視座の高さや、人を動かす力は、自分にはなかなかないものだと感じます。

――熊谷先生の教えを「守る」ことと「問い直す」ことを、どのように両立させていますか。

大切なのは、何のためにその考え方や仕組みが生まれたのかを考えることだと思います。手順を守ることは重要ですが、それ自体が目的になれば、患者さんを置き去りにしてしまうこともあります。一方で、やり方を変えることが、必ずしも教えを否定することにはなりません。
何を大切にし、何を見直すのか。実践した結果を振り返りながら、考え続けることが、受け継ぐということではないでしょうか。

元厚生労働大臣・塩崎恭久氏らとのパネルディスカッション

MTMは歯科医師自身も変える

学ぶ側だった畑先生は、いま、MTMを伝える側にいる。そこで重視しているのは、手順を部分的になぞることではなく、まず徹底して実践すること。そのうえで、なぜうまくいかなかったのかを考え、検証を重ねることである。MTMは患者さんの行動変容を促すと同時に、実践する歯科医師自身の臨床に対する考え方も変えていく。

――受講生だった頃の自分に一番必要だったものは何でしたか。今の受講生に一番伝えたいことは何ですか。

当時の自分に必要だったのは、知識や技術だけでなく、自分の診療を変える覚悟だったと思います。
セミナーで学んだことを持ち帰り、患者さんに向き合い、スタッフと一緒に実践して初めて分かることがたくさんあります。今の受講生にも、ぜひ自分の医院で試してほしい。

そして、うまくいかなかったときに「うちには合わなかった」で終わらせず、なぜうまくいかなかったのかを考えてほしいと思います。患者さんとの関わり方なのか、スタッフとの連携なのか、それとも医院の仕組みなのか。振り返りながら試行錯誤することが、学びを自分のものにすることだと思います。

――先生にとってMTMの本質とは何ですか。10年前と今とで、その理解は変わりましたか。

MTMは、単なる診療手順ではありません。
検査をして、リスクを評価し、初期治療を行い、その結果を確認して治療やメインテナンスへ移行する。こうした流れは重要ですが、同じ手順をたどれば、同じ結果が得られるわけではありません。

長くメインテナンスを継続していると、順調に経過している方もいれば、最初にお伝えしたことを忘れてしまっている方もいます。患者さんに理解していただくことと、それを長く実践し続けてもらうことは、また別の難しさがあると感じています。

患者さんによって、口腔内の状態も生活背景も違います。なぜ今の状態になったのか、これからどうすればよいのか。その問いを患者さんと共有し、納得したうえで一緒に取り組んでいく。そして、一度伝えて終わりではなく、その時々の状態に合わせて、繰り返し伝え、考えていく。そこにMTMの本質があると思っています。

手順を身につけることは出発点です。その手順を、一人ひとりの患者さんを理解し、長く支えていくためにどう生かすか。2012年から続けてきた実践を通じて、その難しさと大切さを改めて感じています。

勤務医と受付デスク前で

理事会がつくる会から、会員とつくる会へ

JOFの初代理事長からその役割を引き継いだ畑先生は、今、会の運営体制そのものを大きく変えようとしている。前期までは理事会が中心となって企画と運営を担い、会員がそこに参加する形だった。しかし、10月から始まる新しい期では、会員自身が問いを持ち寄り、企画や運営にも関わりながら、ともにつくる会へ移行しようとしている。その構想の中で、Communication Gearにも新しい役割が与えられている。

JOFセミナーでのグループディスカッション

――理事長になって一番苦労していること、初めて味わった喜びは何ですか。

苦労しているのは、JOFが大切にしてきたものを守りながら、どう次につなげていくかということです。

これまでは理事が中心となって企画や運営を担ってきましたが、今後は、理事以外の会員にも、企画の段階から積極的に関わってもらいたいと思っています。講演やセミナーに参加するだけでなく、何を学びたいのか、何を一緒に考えたいのか。その段階から一緒につくっていける会にしたいんです。

うれしいのは、同じ志を持つ仲間がいることです。医院の規模や環境は違っても、患者さんにとって何が大切なのかを一緒に考え、実践していける。それは当たり前のことではないと思います。

そして、JOFで学んだことを各医院で実践し、その経験をまた仲間と共有する。そうした積み重ねを、患者さんや社会とのつながりにも広げていきたい。その接点の一つが、Communication Gear(CG)です。患者さんが自分に合った医院を探す窓口であり、オーラルフィジシャン同士が患者さんを紹介し合える信頼のネットワークにもしていきたいと思っています。

JOFの中で学び続けることと、CGを通じて患者さんや社会につながること。その両方を、仲間と一緒につくっていけたらと思います。

――ウェビナーで何でも学べる時代に、スタディグループにしかできないことは何ですか。

知識や技術を学ぶだけなら、今はオンラインでもかなりのことができます。
ただ、臨床では、うまくいったことだけでなく、判断に迷ったことや、うまくいかなかったことにも学びがあります。自分の症例を出し、ほかの人の意見を聞き、ときには厳しい指摘を受ける。そうしたやり取りの中で、一人では気づかなかったことが見えてきます。

育成セミナーでは、MTMに同意してくれた患者さんの症例を、まずは「1症例」から振り返る。そこから、カリエス、ペリオ、咬合力の強い方など、異なるタイプの患者さんを「3症例」で比較してみる。さらに「10症例」「100症例」と対象を広げていけば、個々の症例だけでは見えてこなかった、自院の患者層の特徴や課題も見えてくるはずです。

育成セミナーというと、新入会員向けという印象があるかもしれません。もちろん、初めてMTMに取り組む会員を支援することは大切です。一方で、既存会員にとっても、自分の症例を持ち寄り、これまでの実践を振り返る機会にしていきたいと思っています。参加するのは、院長や歯科医師だけでなく、歯科衛生士でもいい。個人でもチームでも、新入会員でも既存会員でも、それぞれの立場で自分たちの臨床を振り返り、共有することに意味があると思います。

また、春の酒田交流会や秋のチームミーティングにも、育成セミナーと連動したプログラムを組み込みたいと考えています。春は、これから自院で何に取り組むのかを考える場。秋は、実際に取り組んでみてどうだったのかを持ち寄り、共有する場です。育成セミナーの参加者と既存会員が触れ合い、それぞれの経験や考えを共有することで、学びを次の実践につなげていきたいと思っています。

知識を得て終わるのではなく、自分の臨床や医院を振り返り、仲間と考え、また実践してみる。その繰り返しができること。そして、うまくいったことも、そうでなかったことも率直に話せる関係をつくること。それが、スタディグループの大きな役割だと思います。

――間口を広げることと、会の基準を守ること。この二律背反をどう考えていますか。

間口を広げることは大切ですが、何でもよいということではありません。
JOFとして、患者さんに対する姿勢や、歯科医療で何を大切にするのかという基本は守っていきたい。一方で、やり方まで全員が同じである必要はありません。異なる経験や考え方から、新しい気づきが生まれることもあります。

守るべきなのは、個々の方法よりも、その目的だと思います。同じ考えの人だけが集まる会にはしたくありませんが、JOFが何を目指しているのかは、きちんと伝えていきたいですね。

クラウドが教えた、情報だけでは人は変わらない

10年前、畑先生は、患者さんが診療情報をスマートフォンやパソコンで確認できるクラウドサービスに大きな可能性を感じていた。その後8年余り、より良いサービスにするための改善を開発側へ進言しながら、患者さんに情報をどう届けるか試行錯誤を続けてきた。しかし、その提案が十分に反映され、畑先生が思い描いたサービスになることはなかった。その意味では、一つの失敗でもある。その経験を通してつかんだのが、クラウドで情報を共有するだけでは、患者さんの理解や行動は変わらないという実感だった。

――クラウドサービスをやめた理由、患者さんの反応や評価はどうでしたか。

当時は、患者さんが自分の診療情報をスマートフォンで確認できることに、大きな可能性を感じていました。検査結果を知ってもらうことは、自分の口腔内について考えるきっかけになると思ったからです。

ただ、情報を見られるようにすることと、それによって患者さんの理解や行動が変わることは、必ずしも同じではありません。仕組みを整えるだけで、患者さんが自分の状態を理解し、セルフケアに取り組むようになるわけではない。そのことを実感しました。

新しいサービスを導入すること自体が目的になってはいけない。大切なのは、それが患者さんにとって本当に役立っているかどうかだと思います。

口腔内カメラでお口の中の状態を確認しながら、患者さんにわかりやすく説明

医院を大きくすることだけが、成功ではない

この10年間、畑先生は、診療の仕組みだけでなく、そこで働く人が何を考え、どう行動するかを意識するようになった。同時に、患者さんに理解してもらい、納得したうえで診療を始めるという姿勢は変わっていない。それを支えるため、診療室の掲示物、バックヤード、消毒・滅菌体制など、患者さんから見えにくい環境にも手を入れてきた。

――この10年間で最も変わったこと、逆に頑なに変えていないことは何ですか。

変わったのは、診療の仕組みだけでなく、そこで働く人たちが何を考え、どう行動するかを、より意識するようになったことです。

2014年の改装を機に、MTMを実践するための診療環境や仕組みを整えてきました。ただ、仕組みがあれば、それだけでよい診療ができるわけではありません。同じ検査やメインテナンスでも、何を考えて行うかによって中身は変わります。

一方で、変わっていないのは、患者さんに理解してもらい、納得したうえで診療を始めるという姿勢です。歯を修理するだけでなく、なぜその問題が起きたのかを一緒に考える。この考え方は、開業当初から大切にしてきました。

そして、歯科医療の価値をできるだけ大きくしていきたいという思いも変わりません。ただ、私にとっての価値は、医院の規模や利益を拡大することだけではありません。患者さんにとっての価値、スタッフにとっての価値、社会に対して歯科医療が果たせる役割を大きくしていきたいと思っています。

もちろん、経営が成り立たなければ、よい診療は続けられません。ただ、利益をどこまでも追い求めることが、自分の目指すところなのかというと、少し違います。

成功すれば、さらに規模を大きくし、利益を増やしていく。それも一つの生き方です。一方で、手に入れたものを際限なく追い求めるのではなく、あるところで経済的な執着を手放し、自分が本当に大切にしたいことに向き合う。そんな生き方にも憧れます。

成功すること以上に、成功に縛られないこと。言うのは簡単ですが、実際にはなかなか難しいことですね(笑)。医院の規模を大きくすることだけを目標にせず、患者さんに向き合い、スタッフが無理なく働き、よい診療を長く続けられる。そんな環境を大切にしたいと思っています。

アップルデンタルセンターのメインテナンスに関する調査結果

予測が外れたあとに見えたもの

2017年、畑先生は『10年後は、質の高い診療記録や情報を地域社会に発信する時代になる』と話していた。それは、クラウドサービスが発展し、歯科医院と患者さん、さらに地域社会をつないでいくという期待の上に立った予測でもあった。しかし、そのクラウドサービスは思うような形にはならなかった。その現実を経験した現在、10年前の予測をどう捉えているのか。そして、さらに10年後の歯科界をどう見ているのか。

メディカルトリートメントモデルへの取り組みを始めてから14年、
畑先生とともに歩んできた歯科衛生士

――「10年後は、質の高い診療記録や情報を地域社会に発信する時代になる」という10年前の予言は、現時点で何点ですか。

自己採点するなら、まだ合格点には届いていない、というところでしょうか。
診療情報を記録し、患者さんに説明する環境は整ってきました。ただ、それが地域社会に十分伝わり、歯科医療の受け方や考え方を変えるところまで進んだかというと、まだ課題があります。

診療記録には、個々の患者さんの経過だけでなく、予防や歯科医療のあり方を考えるための情報も蓄積されています。それを医院の中だけにとどめず、社会に分かりやすく伝えていくことが必要です。目指していた方向は間違っていなかったと思いますが、実現には想像以上に時間がかかっていますね。

――10年後の歯科界はどうなっていると思いますか。

歯科医院の数や保険制度がどう変わるかを正確に予測することは難しいですが、今までと同じやり方だけで医院を運営していくことは、だんだん難しくなると思います。

ただ、10年前と比べて、患者さんの歯科医療に対する理解やリテラシーが大きく変わったかというと、そういう実感はありません。情報を得て行動できる人と、そうでない人との間で、口腔の健康状態の差が広がっていく可能性もあります。

すでに多くの歯を失い、日常生活に不便を感じている人ほど、目の前の困りごとを何とかしたい。その思いにつけ込むような医療であれば、問題はさらに深刻になります。

技術や情報が進歩しても、誰もが適切な判断をできるようになるわけではありません。情報が増えることと、自分に必要な医療を選べることは別です。そう考えると、少し気が遠くなります(笑)。

それでも、患者さんが自分の口腔内を理解し、納得して選択できるようにすることは、歯科医院が担うべき役割だと思います。10年前から課題が残っているのは、少々困ったことですが、まだやるべきことが残されているということですね。

――10年後、60代の畑先生は何をしていますか。まだ、診療台の横に立っていますか。

10年後も、何らかの形で診療には関わっていたいと思います。
ただ、今と同じように、すべての診療を自分で担っているかは分かりません。
これまでアップルデンタルセンターやJOFで取り組んできたことを、次の世代にどうつないでいくか。そのことにも時間を使いたいと思っています。

歯科医療の価値を歯科界の中だけで語るのではなく、一般の人や異なる分野の人にも伝えていきたい。歯科医師としてできることの範囲を、少し広げていけたらいいですね。

歯科医療と社会の間に立つ

10年前の記事には、『キャズムにはしごを架ける』という図が掲載されていた。歯科医療の中では当然とされることと、一般の人が歯科医院に求めること。その間にある隔たりを越えるための、一本のはしごである。現在も、畑先生は歯科医療と一般社会をつなぐ役割を続けようとしている。

筑波大学で高齢者を対象に講演

――「キャズムにはしごを架ける」という図に込めた思いと、今後も「はしご役」を続けるつもりはありますか。

歯科医療の中では当たり前だと思っていることでも、一般の人には必ずしもそうではありません。

歯が痛くなったら歯科医院に行き、悪くなったところを治す。そうした考え方が一般的ですが、問題が起きる前から自分の口腔内を知り、健康を守るために歯科医院を利用するという考え方もあります。その間には、まだ大きな隔たりがあると感じています。

「キャズムにはしごを架ける」というのは、その隔たりを埋めるために、歯科医療の側から一般の人たちに歩み寄るイメージです。専門的な知識をそのまま伝えても、なかなか伝わりません。相手に届く言葉に置き換え、自分の生活とどう関係するのかを感じてもらう必要があります。

歯科医療の内側で議論していても、社会全体が変わるわけではありません。一般の人が何を求めているのかを知り、こちらからも伝えていく。その両方をつなぐ役割は、これからも続けていきたいと思っています。

沖縄で、子どもたちに向けて講話

――私の思い込みかもしれませんが、歯科医師や業界関係者の前で話すときより、一般の人の前で話すときの方が楽しそうに見えます。実際のところはどうですか。

そう見えるのかもしれませんね(笑)。実際、一般の方の前で話すのは好きです。

ただ、講演に来てくださる方は、もともと歯や健康への関心が高く、理解度も高い方が多いと思います。そこで話が伝わったからといって、日々の診療で目の前の患者さんにも同じように伝わるかというと、そう簡単ではありません。

院長が講演で好きなことを話しても、実際に患者さんを担当する歯科衛生士や歯科医師は、伝わらずに苦労する。そんな構図もあります(笑)。それでも、講演の内容が、スタッフが患者さんと話すときのきっかけになればいいと思っています。

話をそのまま伝える必要はありません。「そういえば、こんな話があったな」と思い出し、いつもと少し違う角度から患者さんと話してみる。それだけでも意味があるのではないでしょうか。

一般の方に話すことには、専門家向けの講演とは違う面白さがあります。ただ、講演で伝えることと、臨床の現場で患者さんに伝わることは別。その間をどうつなぐかは、これからも考えていきたいですね。

訂正を重ねる診療所

変化を語るとき、『アップデート』という言葉は便利で、耳にも心地よい。しかし、畑先生がこの10年間に続けてきたことを表すには、少しきれいすぎる。新しいものを加えるだけではなく、それまで正しいと思っていた考え方や仕組みを実践の結果に照らし、必要であれば自ら訂正する。その繰り返しだったからである。

訂正は、過去を否定することではない。うまくいかなかった事実を引き受け、次のよりよい実践を肯定するための行為である。

10年前と比べて、畑先生の立場は変わった。自院でMTMを実践するだけでなく、それを伝え、JOFという組織を運営し、次の世代へつなぐ責任を担っている。成功や拡大そのものを目的にするのではなく、何を残し、誰とつながっていくのかを考えるようにもなった。変わっていないのは、悪くなった歯を修理するだけで終わらず、なぜそうなったのかを患者さんと考える姿勢である。そのために、まずスタッフに考えることを教え、診療室の環境を整えてきた。スタッフが自ら考えることが、患者さんと一緒に考える診療につながっている。

畑先生は、過去の成功モデルを否定するのではなく、時代、人、自院を取り巻く環境に合わせて、考え方と仕組みに訂正を重ねてきた。その繰り返しによって、中規模でありながら診療の質を追求する現在のアップルデンタルセンターが形づくられた。インタビューから見えてきたのは、完成した一つの答えではなく、実践し、考え、また訂正する診療所の姿だった。

クリニック前でスタッフの皆さんと

先生による自己評価(5点満点)

X Instagram