メディカルトリートメントモデル
メディカルトリートメントモデル
メディカルトリートメントモデル(MTM)とは何か
MTMとは、歯の修理を繰り返すのではなく、病気の原因を管理しながら健康を守っていく歯科医療モデルです。
メディカルトリートメントモデル(MTM)は、歯を削る・詰めるといった処置そのものを中心に考える歯科医療ではなく、お口の状態を「病気としてどう管理していくか」を重視する、どちらかといえば内科的な視点に近い歯科医療の考え方です。
むし歯や歯周病、かみ合わせなどを個別の問題として切り分けるのではなく、検査によって原因やリスクを評価し、治療の必要性や順序、そしてその後の管理までを含めて、長い時間軸で診療を設計することを特徴としています。
世界基準の予防歯科から生まれた歩み
この考え方の背景には、スウェーデンを中心とした予防歯科の長年の臨床と研究があります。
たとえば、Bo Krasse(ボ・クラッセ)教授は、むし歯を「削って治す対象」ではなく、原因を評価し、生活習慣やリスクを管理することで防ぐべき「慢性疾患」として捉える視点を示しました。
この流れを日本の診療現場で体系化し、根づかせてきたのが熊谷崇先生です。
熊谷先生は、治療技術の巧さを競う歯科医療ではなく、検査・診断・説明・再評価・継続的な管理までを一連の流れとして捉える「メディカルトリートメントモデル(MTM)」を提示しました。

「本来あるべき歯科医療」を
丁寧に実行する
このモデルを実践するためには、その場しのぎの治療ではなく、次のような要素が不可欠になります。
・精密な検査と十分な説明
・歯科医師と歯科衛生士が連携するチーム医療
・「再評価」を繰り返す継続的な管理体制
そのため、短期間で症状だけを解消する医療とは、考え方が異なる部分もあります。
MTMでは、「治療しない」という選択肢も含めて、その人にとって何が最善かを考える姿勢が求められます。
この考え方が広く知られる一つの契機となったのが、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』での紹介でした。
番組で描かれたのは、高度な技術の誇示ではなく、患者一人ひとりと丁寧に向き合い、「本当に今、治療が必要か」を問い続ける姿勢でした。
それはまさに、MTMが大切にしてきた価値観そのものです。
一般的な歯科医療とMTMの比較
MTMが従来の歯科医療とどう違うのか、その特徴をまとめました。
| 一般的な 歯科医療 | MTM (メディカルトリートメントモデル) | |
|---|---|---|
| 目指す ゴール | 「修理」: 痛みを取り、穴を埋める | 「健康」: 病気の原因を絶ち、生涯守る |
| 治療の 進め方 | 気になるところをすぐに削る・抜く | 検査と説明を行い、納得してから治療に入る |
| 情報の 共有 | 専門的な説明が中心になりがち | 数値や図を使い、自分事として理解できる |
| 唾液検査 等の役割 | (あまり行われない) | リスクを「見える化」し、納得の材料にする |
| 最も 大切な 工程 | 「処置」: きれいに詰める・被せる | 「再評価」: ケアが機能しているか確認する |
| メインテナンス | クリーニングが目的 | リスク管理と再発予防のための場 |
| 患者さんの 姿勢 | 「お任せします」という受動的姿勢 | 「自分で守る」という主体的姿勢 |
「自分事」としてのお口の健康を
MTMで最も大切にしているのは、一度お口を整えた後の「再評価」です。
今のケアがうまくいっているか、リスクは下がっているか。
それを歯科医院と患者さんが共に確認し、次のステップへとつなげていきます。
唾液検査などの結果を数値で見ることも、それ自体が目的ではありません。
今の自分の状態を数値で知ることで、お口の健康を「自分事」として捉え、前向きに向き合うためのきっかけになります。
MTMは、国際的な予防歯科の流れを背景に、本来あるべき歯科医療を、手間と時間をかけて丁寧に実行するための医療モデルです。
それは、「削られないための医療」「治療を繰り返さないための医療」を求める市民にとって、一つの確かな指標となる考え方です。