
SRPは、歯科衛生士だけの技術ではない
歯周外科に匹敵する結果を、より少ない負担で――
中山吉成先生が半世紀にわたり伝えてきた歯周治療の本質
CG院長インタビュー:中山吉成先生
SRPという「見えない技術」
シアトルで歯周病専門医として40年以上にわたり診療を続けてきた中山吉成先生。現在79歳となった中山先生は、歯周治療の臨床に携わる一方、日本の歯科医師や歯科衛生士にSRPの技術を伝え続けてきました。
中山先生のSRPは、単に歯石を取るための手技ではありません。
目では十分に確認できない歯根面を指先で探り、頭の中でその形を描きながら、適切な器具を用いて整えていく。その精度によって、適切な症例では、歯周外科を行った場合に匹敵する治療結果を、非外科的な処置によって目指すことができます。
歯肉を切開する必要がないため、患者さんの身体的な負担を抑えられます。治癒までの期間が短くなれば、補綴物を装着するまでの期間も短縮できます。
患者さんにとって負担が少なく、歯科医療者にとっても治療を進めやすい。中山先生のSRPは、精密でありながら非侵襲的な、患者さんに優しい歯周治療なのです。
しかし、この技術を歯科衛生士だけに任せていては、医院の診療として定着しません。
歯科医師自身がSRPの難しさと可能性を理解し、歯科衛生士の技術を適切に評価する。そして、十分な診療時間と必要な器具、継続して学べる環境を整える。そこで初めて、SRPは一人の歯科衛生士の技術ではなく、医院全体の治療になります。
なぜ中山先生は、SRPを歯科医師と歯科衛生士がともに学ぶ必要があると考えるのでしょうか。その背景には、1970年代から続くアメリカでの臨床と、日本の歯科医療者へ技術を伝えてきた半世紀の歩みがあります。
日本で学ぶだけでは十分ではない
中山先生が九州歯科大学で学んでいた1970年代、日本の歯科大学でも歯周病に関する授業は行われていました。しかし、講義の数も内容も、現在と比べれば限られていたといいます。
中山先生は大学の図書館で海外の歯周病学の文献を読み進めるうちに、日本で教えられている内容と、海外で研究・実践されている歯周治療との間に、大きな隔たりがあることに気づきました。
「日本の歯科大学で授業を受けているだけでは、十分ではない」
そう考えた中山先生は、アメリカへの留学を決意します。
留学先として選んだのは、ボストンにあるタフツ大学でした。まず英語学校に通い、大学が求める水準の英語力を身につけ、TOEFLで高い得点を取る必要がありました。そのうえで大学の先輩歯科医師から推薦を得て、タフツ大学で学ぶ機会を得ます。
その後、アメリカで歯周病専門医として研鑽を重ね、シアトル近郊で開業。以来40年以上にわたり、歯周治療の臨床に携わるとともに、歯科医師や歯科衛生士の教育を続けてきました。
熊谷崇先生との出会い
中山先生と熊谷崇先生の出会いは、1980年代初め、アメリカで開催された歯周病学会にさかのぼります。二人をつないだのは、日本大学出身で新潟の石井正敏先生でした。
当時、熊谷先生は海外の歯周病学から積極的に学ぶ一方、日本の歯科医師によるスタディグループを率いていました。現在のSATの前身にあたるこのグループには全国から意欲ある歯科医師が集まり、海外から講師を招いたセミナーや海外研修を行っていました。
熊谷先生の診療観に大きな影響を与えた人物の一人が、当時、ペンシルベニア大学で歯周病治療とインプラント治療の権威として知られていたエド・ローゼンバーグ先生です。
ローゼンバーグ先生から熊谷先生が学んだのは、治療技術だけではありませんでした。口腔内写真の12枚法をはじめ、口腔内写真を一定の条件で記録し、継続的に比較・評価するための規格性のある資料づくりも、その一つでした。
患者さんの口腔内を客観的な資料によって「見える化」し、その情報を患者さんと共有する。写真や検査データを、歯科医療者と患者さんとの「共通言語」にする。この考え方は、その後、日吉歯科診療所の臨床に定着し、現在のメディカルトリートメントモデルにおける、データに基づく診療へとつながっていきました。
1984年8月、ワシントン大学歯学部のサマーセミナー
1984年8月、全国から集まった約30人の日本人歯科医師が、シアトルにあるワシントン大学歯学部で開催された研修セミナーに参加しました。
歯周治療と補綴治療を組み合わせた「歯周補綴」をテーマとするサマーセミナーで、講師を務めたのはジム・シャーバーグ先生でした。当時、シアトル近郊で開業して間もなかった中山先生と石井正敏先生が通訳を務めました。
当時の歯周補綴では、歯周病によって動揺した歯だけでなく、健康な歯も含めてワイヤーなどで連結し、口腔内全体を大がかりに再構成する治療が行われていました。
その治療を目の当たりにした熊谷先生は、「これは過剰治療ではないか」と感じたといいます。
当時、ワシントン大学で歯周病学の教授を務めていたロイ・ページ先生も、こうした大がかりな歯周補綴には同じような疑問を持っていたといいます。
そして熊谷先生は、この頃にページ先生の考え方に触れ、後の診療観に大きな影響を与える言葉に出会います。
「う蝕も歯周病も、本来はまれな病気である」
重症化した歯をどのように修復するかではなく、そもそも、なぜ病気になったのか。その原因を明らかにし、発症と進行を防ぐことができれば、大がかりな治療そのものを減らすことができます。
歯周補綴を学ぶためのセミナーで、熊谷先生が持ち帰ったものは、補綴の技術だけではありませんでした。そこで抱いた過剰治療への違和感と、病気の原因を捉え、発症を防ぐという考え方が、その後の予防を中心とした診療へ向かう契機となったのです。
ワシントン大学を中心に生まれた中山先生、熊谷先生、ロイ・ページ先生、ジム・シャーバーグ先生、エド・ローゼンバーグ先生らの交流は、後に日本の予防歯科へ大きな影響を与えました。
規格化された資料によって患者さんの口腔内を記録し、う蝕や歯周病のリスクを評価する。治療して終わるのではなく、病気の原因を捉え、発症や再発を防ぎながら、生涯にわたって口腔の健康を支える。
現在のメディカルトリートメントモデルの原型の一部は、この時期の出会いと交流の中から生まれたといっても過言ではありません。
その交流の中で、中山先生が日本の歯科医師や歯科衛生士に伝え続けてきたのが、外科処置に頼る前に、非外科的な治療によってどこまで改善できるかを追求するSRPの技術でした。
フラップをせずに、SRPだけで歯石は取れるのか
――最近では、拡大鏡などで見えているため、深いポケットの中を細かく探る必要はないと考える先生もいるようです。中山先生はどのようにお考えですか。
中山先生:
そうではないと思います。ポケットの中は血液や唾液に覆われています。表面を拭き取った瞬間には見えても、すぐにまた覆われてしまう。見えているようで、実際には見えていないのです。
ルーペや拡大鏡を使っても、歯根面がどのような状態になっているのか、どこまで処置できているのかを、目だけで正確に判断することはできません。
――顕微鏡を使っても難しいのでしょうか。
中山先生:
歯根面の微細な状態を確認しようとすれば、電子顕微鏡のような世界になります。染め出し液を使っても、探針で探っても、歯根面の状態をすべて目で確認できるわけではありません。
最終的には、セメント質がどのような状態なのか、表面にどのような凹凸があるのかを、経験と触覚で判断していく必要があります。
山の稜線を少しずつ整える
中山先生:
歯根面には、岩登りの壁のような細かな凹凸があります。その山の頂上を少しずつ削り、稜線を整えていくような感覚です。
谷の部分まで深く削るのではなく、高い部分を少しずつならしていく。歯根面の状態を指先で確かめながら、治癒しやすい環境に整えていきます。
――削りすぎると、どのような問題が起こりますか。
中山先生:
セメント質や象牙質を削りすぎると、今度は窪みができます。そこに細菌がたまり、器具が届きにくくなると、再び取り残しが生じます。
歯根面の細かな凹凸は、レントゲンにもCTにも写りません。ですから、自分の指先で歯根の形を思い描きながら処置する必要があります。
見えない場所だからこそ「探る」
中山先生:
歯と歯の間は、ミラーを入れても十分には見えません。見えない場所だからこそ、探る必要があります。
ただし、探るときの感覚が弱ければ、自分が何に触れているのか分からなくなります。歯石なのか、歯根面の凹凸なのか、器具が滑っているだけなのか。その違いを指先で感じ取らなければなりません。
興味深いことに、きちんと取れているかどうかは、患者さん自身にも分かることがあります。
「今回は取れた感じがします」
「前回は何か残っていた気がします」
患者さんは、処置を受けたときの感触を覚えています。術者が考えている以上に、施術の違いを感じ取っているのです。

相互実習で分かる感触の違い
中山先生:
私は研修で、参加者同士がお互いの歯を探る相互実習を行っています。
院長先生が探ったときの感触と、私が探ったときの感触を、患者役になった人自身に体験してもらいます。そうすると、同じ器具を使っていても、探り方によって感じ方がまったく違うことが分かります。
自分の感覚がどの程度繊細なのかは、自分だけで練習していても分かりにくいものです。他の人の操作を患者側として体験することで、初めて気づくことがあります。
――フラップを開け、歯根面が見えていれば処置しやすいのでしょうか。
中山先生:
見えているから取れるとは限りません。
切れない器具を使い、力を入れてゴリゴリと動かしても、歯石の表面を滑っているだけということがあります。
冗談で「歯石は取れなくても、金は取れるよ」と言うことがあります。処置を受けた患者さんには、きれいになったような感覚が残るかもしれません。しかし、歯石が残っていれば、歯周病の改善につながらないこともあります。
見えていることと、実際に取れていることは別なのです。
歯周外科を回避できる可能性
精度の高いSRPによって歯石や汚p染物質を取り除き、歯根面を適切に整えることができれば、歯周組織は治癒に向かいます。中山先生の臨床では、適切な症例に対して十分な時間をかけてSRPを行うことで、歯周外科に匹敵する結果が得られてきました。
もちろん、すべての歯周病がSRPだけで改善するわけではなく、歯周外科が必要な症例もあります。しかし、深いポケットがあるという理由だけで安易に外科処置を選択するのではなく、まず精度の高いSRPによってどこまで改善できるかを見極める。それによって歯周外科を回避できれば、歯肉の切開や縫合に伴う身体的負担、術後の疼痛や腫脹を避けられ、治癒までの期間も、補綴治療へ移行するまでの期間も短くなります。
それを可能にするのは、器具の種類でも拡大鏡の倍率でもありません。見えない歯根面を探り、その状態を指先で正確に把握し、必要な部分だけを適切に整える技術です。
日本とアメリカの歯科衛生士教育
――日本の歯科衛生士には、SRPを難しいと感じている方が多いようです。中山先生はどのように見ていますか。
中山先生:
日本では、十分に歯石を取りきれていない症例が多いという印象があります。一方、アメリカの歯科衛生士は、卒業する時点で、一定程度のSRPができるように教育されています。
――どのような違いがあるのでしょうか。
中山先生:
一つは教育制度です。
アメリカでは、高校を卒業してすぐに歯科衛生士の専門教育に入るのではなく、まず1年から2年ほど一般教育や基礎科目を学び、その後、最低2年間の歯科衛生士養成課程に進みます。
養成課程では、実技教育に多くの時間が使われます。卒業する頃には、ある程度のSRPができる状態になっています。
州によって制度は異なりますが、局所麻酔やエックス線撮影、歯周治療の一部を歯科衛生士が担当できる場合もあります。その分、求められる技術と知識の水準も高くなります。

技術を身につけるには時間が必要
――日本では、処置に使える時間も限られています。
中山先生:
そうだと思います。
アメリカでは、初期治療で4分の1顎に1時間ほどかけることがあります。全顎を丁寧に処置しようとすれば、当然それだけの時間が必要です。
日本では、保険診療の仕組みや診療時間の制約があり、一人の患者さんに十分な時間をかけにくい。その環境の中で技術を磨くのは、簡単ではありません。
――治療費にも大きな違いがありますか。
中山先生:
金額は地域や治療内容によって異なりますが、アメリカの専門医による歯周治療には、それだけの時間と費用がかかります。
日本の保険診療は、患者さんにとって受診しやすい制度です。ただ、時間をかけて歯石を確実に取り切るという点では、診療報酬とのバランスが難しいと感じます。
金額の高低だけでなく、どれだけの時間をかけ、どのような治療を行っているのかを考える必要があります。

器具を作り、研ぎ、整える
中山先生:
市販のミニキュレットがなかった頃、私は既存のキュレットを切り、研磨して、短い器具を自分で作っていました。
メーカーに特別な器具を作ってほしいと依頼しても、一定数の注文がなければ製造してもらえません。それでも、精密な加工ができる工場を見れば、技術的には作れるはずだと考えていました。
――研ぎ方を間違えると、器具はどうなりますか。
中山先生:
器具の形そのものが変わり、使えなくなります。
しかし、正しい形を理解し、正しい研ぎ方を身につければ、変形してしまった器具でも、ある程度は元の形、効果的に使える形に戻すことができます。
新しい器具を買うことも必要ですが、今持っている器具を適切に整え、長く使うことも大切です。

指先の感覚を守る
中山先生:
日本の歯科衛生士には、手首を大きく動かし、力を入れて器具を操作する方が多いように感じます。これはアメリカの歯科衛生士にも当てはまることです。
切れない器具で無理に力を入れれば、手も疲れますし、歯根面を正確に探ることもできません。
私は、指先の力をできるだけ抜き、キュレットで探りながら、そのまま除去する感覚を大切にしています。
冗談で「これ以上続けたら、スマートフォンが使えなくなる」と言うことがあります。それくらい、指先の感覚は繊細なのです。
フロスを通したときの音からも、歯面の状態を感じ取ることができます。プラークが付着していると、澄んだ音はしません。きれいに除去されていれば「キュッ」という音がします。
そうした感覚を患者さんとも共有しながら、処置を進めています。
「できていない」と強く指摘しない
――中山先生のセミナーは、厳しく指摘するというより、自分で気づいてもらうことを重視していると伺いました。
中山先生:
私は、できていないことを強く指摘しないようにしています。
「これはダメ」と言われると、そこで気持ちが止まってしまう人もいます。まず来てもらい、実際に体験してもらう。その中で「自分のやり方とは違う」と気づいてもらうことが大切です。
そこから、もっと知りたい、もっと上手になりたいと思う人が出てくれば、それで十分です。
――オンラインで学ぶ機会も増えました。
中山先生:
理屈を学ぶには、オンラインも役に立ちます。
ただ、動画を見て理解したことと、実際に手を動かしてできることは別です。理解したつもりになってしまうことのほうが、危険な場合もあります。
SRPは、実際に器具を持ち、歯根面を探り、ほかの人の操作との違いを体感しなければ身につきません。

半世紀を経て、伝え続けていること
中山先生が語るSRPは、単に歯科衛生士が習得する処置ではありません。
深い歯周ポケットがあれば歯科衛生士にSRPを任せ、それで改善しなければ歯科医師が歯周外科を行う――そのように役割を分けるだけでは、SRPは医院に定着しません。歯科医師自身がSRPを学び、何を探り、何を取り除き、歯根面をどのような状態に整えるのかを理解して初めて、歯科衛生士の技術を評価し、その成長を支えることができます。
その技術は外からは見えにくいものです。しかし違いは歯周組織の治癒に現れ、ときには処置を受けた患者さん自身にも伝わります。必要なのは知識だけではなく、時間をかけて繰り返し触れ、感じ、確かめることです。
79歳となった現在も、中山先生は、半世紀近くにわたって培ってきた技術と経験を次の世代へ伝え続けています。それは、一人の術者の技術を伝えるだけでなく、歯科医師と歯科衛生士がともに学び、外科処置に進む前に、より負担の少ない治療によって患者さんの歯を守れる医院を育てることでもあるのです。
SRPを、医院全体の技術にするために
中山吉成先生の「実践歯周病セミナー」は、歯科衛生士だけを対象とした技術研修ではありません。
中山先生が医院を訪問し、実際の患者さんへの処置を通して、歯科医師と歯科衛生士がともにSRPを学びます。
歯科医師が実際にSRPを体験し、その難しさと可能性を理解する。歯科衛生士の技術を適切に評価し、成長を支えられるようになる。そして、SRPに必要な時間と環境を医院全体で整える。
中等度までの歯周炎を、まず非外科的処置によって確実にコントロールする。その基本的な力量を医院全体で身につけ、患者さんの身体的な負担を抑えながら、その歯を守ることを目的とした訪問型セミナーです。
参考図書|中山先生が勧める一冊
『Prophylaxis 米国式予防歯科プログラム プロフィーの臨床』 加藤ミエ著/一般財団法人口腔保健協会
米国で歯科衛生士として活動してきた加藤ミエ先生による、米国式の予防歯科プログラムとプロフィーの臨床を紹介した一冊です。米国における歯科衛生士の役割や予防歯科の考え方、実際の臨床を理解するための参考図書として、中山先生にご紹介いただきました。
写真提供:わかみ歯科クリニック(秋田県)、日吉歯科診療所(山形県)、グリーンヒルズデンタルクリニック(宮城県)、新堂歯科診療所(富山県)、早乙女歯科医院(栃木県)
