日本の企業の99.7%は中小企業であり、日本経済が生む付加価値の約半分は「ファミリービジネス(同族経営)」が担っています。
歯科医院もその例外ではありません。
しかし、同族経営には「前近代性」「非合理」というイメージがつきまといます。
一応はMBAホルダーの私の視点から言えば、ファミリー経営の歯科医院が抱える最大の課題は、経営学的な「一流のマネジメント」が欠けていることではありません。
最大の課題は、「MPO(Mama & Papa’s Omoitsuki:ママとパパの思いつき)」という情熱的なエネルギーを、いかにして「客観的なシステム」へと落とし込むかにあります。
「MPO」を「戦略」に変換するOS:MTM
多くの歯科医院が、院長やその家族の「直感」で運営されています。この「俺流」の経営は、時に爆発的な力を発揮しますが、スタッフにとっては「ゴールのない暗闇」を走らされるような不安を伴います。
この「思いつき」を、誰もが共有できる「共通言語」へと変換するOSこそが、メディカルトリートメントモデル(MTM)なのです。
あえて、ここで強調したいことは、MTMを単なる臨床手法として導入するのではなく、「経営のガバナンスシステム」として導入することの意義です。
「同族経営(ファミリービジネス)」という言葉に、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?
「前近代的な組織」「公私混同」「身内びいき」……。
日本ではとかくネガティブな文脈で語られがちなこの形態ですが、世界の経営学に目を向けると、全く異なる景色が見えてきます。
実は、1990年代から2000年代にかけて欧米で行われた多くの統計分析により、ファミリー企業の業績は、非ファミリー企業よりも資本効率(ROE・ROA)や売上高成長率において優れていることが明らかになっています。
今回、この「ファミリービジネスの強み」を歯科医院に落とし込むための「ミッシングピース」についてお話しします。
「MPO経営」の潜在能力と限界
多くの歯科医院は、院長が主治医、配偶者が事務、子が後継者という典型的なファミリービジネスです。そこには「MBA(経営学修士)」では太刀打ちできない、ある一つの強力なエンジンが存在します。
それが、「MPO(Mama & Papa’s Omoitsuki:ママとパパの思いつき)」です。
一見、揶揄するような言葉に聞こえるかもしれませんが、私はこれを否定していません。
むしろ、この「思いつき」こそが、大企業には真似できないスピード感と、地域への深い情熱を生み出す源泉です。
しかし、問題はこの「エネルギー(思いつき)」が「仕組み(システム)」になっていないことです。
スタッフが「今日は院長の機嫌がいいからこう動こう」「昨日のママ(事務長)の指示と違う」と困惑しているなら、それは最強の武器が、組織を振り回す刃(やいば)に変わってしまっている証拠です。
「型」としてのメディカルトリートメントモデル(MTM)
一流の上場企業が、これ以上の改善余地を見出すのが難しいほど洗練されているのに対し、歯科医院の多くは「俺流・私流」の未完成な状態です。だからこそ、少し「経営の型」を導入するだけで、利益を2倍、あるいは10倍にする潜在力を持っています。
その歯科医院経営における「最強の型」こそが、メディカルトリートメントモデル(MTM)です。
なぜ、ファミリー経営にMTMが必要なのか。理由は3つあります。
- 「属人化」からの脱却
パパ(院長)の職人芸に依存せず、誰が担当しても「エビデンスに基づいた予防」を提供できる組織へと進化させます。 - 「スチュワードシップ(受託責任)」の具現化
ファミリー企業が持つ「次世代に良いものを残したい」という本能的な願いを、「長期伴走型の予防歯科」という具体的なシステムに落とし込めます。 - 「感情」を「論理」でガードする
家族ゆえの感情的なぶつかり合いを、MTMという客観的な指標(データ)を軸にすることで、プロフェッショナルな議論へと変えることができます。
ここで、一つ重要な線引きをしましょう。
MTMを導入すると、サリバテストの結果やカリエスリスクの改善率といった「臨床データ」が蓄積されます。
しかし、これらの数値をそのままROI(投資対効果)として語ることには、厳密な科学的根拠(エビデンス)があるわけではありません。
むしろ、経営者として私たちが注目すべきは、もっと生々しい「行動の指標」です。
- 初期治療から再評価までの「継続率」
- メインテナンスの「キャンセル率」
なぜ、この指標がファミリー経営を救うのか
科学的な厳密さとは別に、これらの指標を追うことには、ファミリービジネスにとって圧倒的なメリットがあります。
- 「感情」ではなく「事実」で対話する
家族経営では、指導が感情的なぶつかり合いになりがちです。
しかし、「継続率」という客観的なデータがあれば、議論の軸は「誰が悪いか」ではなく「システムのどこを改善すべきか」に移ります。 - スタッフの「誇り」を可視化する
単なる売上目標はスタッフを疲弊させますが、「再評価まで継続してくれる患者さんが増えた」という事実は、医療従事者としてのプロフェッショナリズムを刺激します。 - 「低リスクなベンチャー」としての承継
後継者にとって、先代から引き継いだ「とりあえず回る資金」という時間は、イノベーションのための貴重な資源です。
MTMという「型」があることで、承継時の混乱(スタッフ離職や患者離れ)を最小限に抑え、スムーズに新時代の経営へとシフトできます。
上場企業(一流)が利益を2倍にするのは至難の業です。
なぜなら彼らの組織は既に仕組み化されているからです。
一方、独自の情熱を持つ「俺流」のファミリー歯科医院が、MTMという「管理可能なシステム」を手に入れたらどうでしょうか?
「思いつき」が「戦略」に変わるだけで、その潜在能力は2倍、あるいはそれ以上へと跳ね上がります。
OP育成セミナー卒業生は、単なる歯医者ではありません。
「科学的な臨床」と「合理的な経営指標」を掛け合わせた、地域で最も信頼されるイノベーティブな組織を目指せるのです。
(文:コミュニケーションギア編集 伊藤)
伊藤の視点:MBAのロジックを、現場の武器に!
「歯科医院の常識は、社会の非常識」と戸惑うこともあるかもしれません。しかし、アカデミックな知見を武器に、同族経営の強みと弱みを冷静に認識して付き合えるようになれば、それはこれ以上ないアドバンテージになります。
再評価までの継続率という、一見地味な「数字」の向こう側に、患者さんとの真のパートナーシップが宿っています。
そのシステムを、共に構築していきましょう。
この“MTMシステム”を、体系的に学ぶ場があります。
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