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「正しさを伝える」のではなく、
「一緒に考える」という仕事―

CG-DHインタビュー「このは歯科・針谷さん」

このは歯科で働く
歯科衛生士・針谷さんの現場から

静岡市のオフィス街の一角にある「このは歯科」。
都市型のビルの一室にありながら、そこにはどこか静かな時間が流れています。

この医院で行われているのは、一般的な治療と予防歯科といった内容ではありません。患者さん一人ひとりが、自分の健康とどう向き合っていくのか。
その過程に寄り添いながら、関係性を育てていく診療です。

幡野先生はその診療を、「正しさだけでは届かない」と表現しています。
どれほど医学的に正しいことでも、それがそのまま患者さんの行動につながるわけではない。むしろ、正論であればあるほど、距離が生まれてしまうこともある。

だからこそ必要になるのは、「伝えること」ではなく「関わること」。
このは歯科には、その姿勢が日々の臨床の中に息づいています。

そして、その関係性の中心にいるのが歯科衛生士です。
今回は、その現場に立つ歯科衛生士・針谷さんにお話を伺いました。
東京医科歯科大学口腔保健学科を卒業し、あえて臨床の現場を選んだ4年目の歯科衛生士です。

「臨床を知らないままでは、
何もできないと思った」

東京医科歯科大学口腔保健学科を卒業した歯科衛生士には、企業や行政など、予防歯科の専門性を活かして社会に広く関わる選択肢も数多く用意されています。

その中で針谷さんは、あえて診療所という「現場」を最初の舞台に選びました。

「将来どういう形で関わるにしても、まずは臨床を知らないと何もできないなと思って」

その言葉には、効率や近道に走らず、まずは目の前の患者さんと向き合うことから始めようとする、彼女の誠実な決意が宿っています。

キャリアの広がりを追う前に、あえて泥臭い経験の中に身を置く。
その選択を支えているのは、「人と関わる医療をやりたい」という、シンプルで揺るぎない動機でした。

惹かれたのは、“関係性”だった

このは歯科との出会いは、卒業研究の協力がきっかけでした。

見学で感じたのは、技術や設備ではなく、日々の診療の中で築かれている関係性でした。

「患者さんの生活に寄り添って、ケアの方法を提案しているのを見て、
こんなふうに働けたらいいなと思いました」

また、院内の印象について、こんな言葉も残しています。

「すごくあたたかい感じがして。
それぞれの衛生士さんが、自分のスタイルで患者さんと関わっているのも印象的でした」

さらに彼女は、そのときの感覚をこう振り返ります。

「技術とか設備というよりも、“空気”がいいなと思ったんです」

マニュアルに沿った対応ではなく、個々の関わり方が尊重されている。
その「自由さ」と「責任」のバランスが、この医院の特徴でもあります。

「どう関わるか」という戸惑い

入職して最初に感じた難しさは、意外にも技術的なものではありませんでした。

「患者さんにどう声をかけたらいいのか、どう接したら安心してもらえるのかがわからなくて」

医療でありながら、サービスでもある歯科。
その中で求められるのは、単なる説明ではなく「伝わり方」です。

最初は、必要最低限の言葉を伝えることで精一杯でした。

「痛くないですか、とか、30分は食べないでください、とか。
本当に目の前のことをこなすので精一杯でした」

そこから少しずつ、会話が生まれていく。
世間話のようなやりとりの中に、関係性が芽生えていく。

「今は、少しずつ和やかな雰囲気で話せるようになってきたかなと思います」

多くを語らなくても、安心感は伝わる。
その人らしさが、少しずつ臨床の中で形になっていきます。

「先生ならなんと言うだろうか」

現在、針谷さんは幡野先生のアシスタントとして診療に関わりながら、患者対応を担っています。

このは歯科では、歯科医師が治療の選択肢を提示し、その後、歯科衛生士が患者さんと対話を重ねていく場面が多くあります。

その中で感じるのが、「引き出しの少なさ」でした。

「患者さんからいろいろ聞かれたときに、
先生ならどう答えるんだろうって考えながら話すのがすごく難しかったです」

知識があれば答えられるわけではない。経験がなければ言葉にならない。

そのギャップを埋めるために、日々の診療を「見る」ことが学びになっていきます。

「こういうときは治療になるんだ、この場合は経過観察なんだな、とか、診療を見ながら少しずつ理解していきます」

それは、教科書では学べない臨床です。

言葉はどう磨かれるのか

このは歯科の歯科衛生士たちは、それぞれ異なる関わり方を持っています。

「同じことを聞くにしても、言い方が全然違うんです」

患者さんの本音を引き出すための言葉。説明を受け入れてもらうための言い回し。それらはマニュアル化できるものではなく、経験の中で磨かれていくものです。

「自分だったら聞けないことも、自然に聞けていたりして。
どうやって話しているのかを見ながら学んでいます」

言葉は、技術と同じくらい重要な「臨床スキル」です。

予防とは、「患者さんが動き出すこと」

針谷さんが感じている予防歯科の本質は、非常にシンプルです。

「患者さんが、自分で考えて行動してくれること」

長く通っている患者さんの中には、こうした言葉が自然に出てきます。

「こうやってケアしてるんだけど、どうかな?」

それは、指導の結果ではなく、患者さん自身が主体的に関わり始めている証です。

「一緒に予防している感じがします」

この言葉は、幡野先生がおっしゃるところの「伴走者」という立場と重なります。

選択の瞬間に立ち会う

歯科衛生士として「伝わった」と感じるのは、どんなときでしょうか。

「患者さんが、自分の状況や生活を考えた上で、
“私はこれがいいと思う”って決めてくれたときです」

そこには、医療者が導いた正解はありません。
あるのは、患者さん自身が選んだ答えです。

金額や通院頻度、生活背景。
そのすべてを含めて、自分の意思で決める。

その瞬間に、関わりの意味が立ち上がります。

答えを持たない学び

このは歯科で働くということは、完成された答えを学ぶことではありません。
むしろ、「考え続けること」を求められる現場です。

「検査をして、記録して、比較して。
ちゃんと考えていかないと、健康は守れないんだなと思いました」

流れ作業のように見える診療の裏には、必ず「意図」がある。
その積み重ねが、医療の質をつくっていきます。

これからの自分へ

最後に、これからの目標について伺いました。

「患者さんのことをちゃんと知って、
その人にとってのベストを一緒に探せる歯科衛生士になりたいです」

そして、この仕事の価値についてこう語ります。

「小さい頃から大人になるまで、長く関われる仕事ってあまりないと思うんです。
患者さんと一緒に歩んでいける仕事だと思います」

【編集後記】

幡野先生のインタビューで印象的だったのは、「問い続ける医療」という言葉でした。

そして今回の針谷さんの話からは、その問いの中に立ち続ける現場の姿が見えてきます。

正しさを伝えるのではなく、患者さんとともに考え続ける。
その関わりは決して効率的ではありません。

ときに遠回りで、答えが見えないこともある。
それでも、その時間の中でしか生まれない信頼があります。

また個人的に印象に残ったのは、針谷さんの現在の立ち位置でした。
卒業から4年目といえば、一般的には担当患者を持ち、「一人前の歯科衛生士」として見られることが多い時期です。

その中で、現在の関わり方には少し立ち止まって考えさせられるものがありました。

その環境の中で、ストレスや葛藤はないのだろうか。
そんな問いも、正直なところ頭をよぎります。

ただ今回の話を通して見えてきたのは、役割や形式よりも、
「どの位置に立って、何を学び続けているのか」という視点でした。

担当を持つことだけが成長ではない。
むしろ、隣で見続け、考え続ける時間の中にしか得られない臨床がある。

針谷さんの現在地は、そうした“見えにくい学び”の中にあるのかもしれません。

このは歯科の歯科衛生士とは、何かを“している人”ではなく、
「どう関わるか」を実践し続けている存在なのかもしれません。

そしてその関わりは、患者さんだけでなく、医療者自身のあり方をも、静かに変えていくのだと思います。

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