
「継続はつくるもの」
担当歯科衛生士として患者と向き合うということ
このは歯科:歯科衛生士岩﨑さん
このは歯科で働く
歯科衛生士・岩﨑さんの現場から
ゲスト:岩﨑さん
(このは歯科 歯科衛生士・入職6年目)
静岡市のオフィス街にある「このは歯科」。
ここでは、歯を治すだけでなく、「その人がどう生きていきたいのか」という視点から医療が組み立てられています。
前回は、院長の幡野先生にお話を伺いました。
今回は、担当歯科衛生士として患者さんと長期的に関わる岩﨑さんの言葉から、このは歯科のもう一つの姿を見ていきます。
幡野先生が語るのは、「正しさだけでは届かない医療」。
その考え方は、歯科衛生士の現場にも深く浸透しています。
今回お話を伺ったのは、入職6年目の歯科衛生士・岩﨑さん。
担当歯科衛生士として患者さんと長期的に関わりながら、予防歯科の実践を担っています。

「健康な人にも関われる医療」に惹かれて
歯科衛生士という職業を選んだ理由は、意外にもシンプルです。
「医療職の中で、健康な方にも関われるところに魅力を感じました」
一般病院という場では、どうしても「病気の人」と向き合う時間が中心になります。その中で歯科衛生士は、病気の治療だけでなく、健康な状態を維持する人とも長く関われる。
「小さい子どもからご高齢の方まで、ずっと関わっていける。それがこの仕事のいいところだと思いました」
“治す医療”ではなく、“関わり続ける医療”。その価値に、学生の頃から惹かれていたといいます。
「継続は自然には起きない」という現実
実際に現場に立ってみて、すぐに気づいたことがあります。 それは、「継続の難しさ」でした。
「メインテナンスって、ただ来てもらうだけでは続かないんです」
健康な状態を維持するための通院。
それは本来、緊急性が低く、優先順位が下がりやすいものです。
「毎回同じことをしているだけだと、“ただ来ているだけ”になってしまう。だから、何かしらの変化や意味を感じてもらわないと続かないと思います」
継続は“前提”ではありません。放っておけば、途切れてしまうものです。だからこそ、意図的につくり出していく必要があります。

このは歯科を選んだ理由は
「対話の多さ」
このは歯科との出会いは、学生時代に幡野先生の講義を受けたことがきっかけでした。
見学で強く印象に残ったのは、患者さんとの「対話の多さ」でした。
「ただクリーニングをしているのではなくて、
ちゃんと患者さんのことを考えて関わっているのが伝わってきました」
特に印象的だったのは、先輩歯科衛生士の存在です。「先輩の小川さんや國友さんの姿を見て、“こういう歯科衛生士になりたい”と思いました」技術ではなく、関わり方。その姿勢が、進路を決める大きな要因となりました。

歯科衛生士として見られるということ
入職して最初に感じたのは、意外にも“自由さ”でした。
それは同時に、“責任の重さ”でもあります。
「歯科衛生士として、一人の医療者として見てもらえる環境だったので、
自分で判断しないといけない場面が多かったです」
一般的な診療所では、歯科医師の指示のもとで動く場面が多い中、
このは歯科では歯科衛生士の専門性が尊重されています。
その分、「自分で考えること」が求められる。
「資格を持っている以上、自分で決断する責任があるんだと感じました」
それは決して楽な環境ではありません。
しかし、その経験が歯科衛生士としての自立を促していきます。
学ぶのは
「所作」と「その場のつくり方」
岩﨑さんが先輩から学んでいるのは、技術だけではありません。
「話し方や所作など、細かいところがすごく大事だと感じています」
例えば、器具を置く音ひとつ。ちょっとした動きひとつ。
それらが患者さんに与える印象は大きく、安心感にも、不安感にもつながります。
「小川さんの動きはすごく丁寧で、診療以外の場面でも学ぶことが多いです」
医療の質は、こうした“見えにくい部分”によって支えられています。

予防とは「理解してもらうこと」
学校で学んだ予防歯科と、実際の臨床には大きな違いがありました。
「最初は、健康な人が通うものだと思っていました」
しかし実際には、そうではありません。
「むし歯がある方でも、これ以上悪くならないようにすることも予防だと思います」
重要なのは、状態そのものではなく、
「その人が自分の状態を理解しているかどうか」です。
「たとえ問題があっても、理解した上でケアしている方は違うと思います」ここには、患者主体の医療という考え方が表れています。
「導く」のではなく、「待つ」という関わり。岩﨑さんが大切にしていることの一つが、「待つこと」です。
「ついこちらから説明したくなってしまうんですけど、まず患者さんに考えてもらうようにしています」。
これは簡単なことではありません。医療者として、正しいことを伝えたい。
より良い方向に導きたい。その思いがあるからこそ、言葉を重ねてしまう。
しかし、このは歯科では少し違います。
「患者さんがどう考えるかを大事にしたいので、あえて待つようにしています」この「間」の中に、主体性が生まれます。
「傾聴」がすべての起点になる
関わり方の中で、最も大切にしているのは「聴くこと」です。
「以前よりも、患者さんの話を聞くことを意識するようになりました」
患者さんは、必ずしもすぐに話してくれるわけではありません。
それでも、関係性が築かれると少しずつ変化が見えてきます。
「話してくれるようになると、その人の考え方や背景が見えてくる」その理解が、次の関わりにつながっていきます。

担当制だからこそ見えてくる課題
現在、岩﨑さんは担当歯科衛生士として患者さんを持っています。その中で見えてきたのが、新たな課題でした。
「歯科衛生士としてのことだけじゃなくて、社会人としての自分の力が必要だと感じています」
知識や技術だけではなく、会話の幅や伝え方、人としての成熟。
「どう伝えるか、どう関わるか。そういう部分がまだ足りないなと思います」
担当制は、患者さんとの関係が深くなる分、自分自身の課題も浮き彫りになります。

スウェーデンで見た「当たり前の違い」
印象に残っている経験として挙げてくれたのが、スウェーデンでの研修でした。
「日本では『予防のために歯科へ通う』という意識がまだ十分に浸透しているとは言えませんが、
スウェーデンでは定期的な歯科受診をしていない方も含めて、一般の方の口腔内の状態がとても良かったんです」
そこには、個人の努力だけではない、社会全体の意識の違いがありました。
「国として予防を支える仕組みや考え方が根付いているんだろうなと感じました」
予防歯科は、個人の問題であると同時に、社会の問題でもある。その視点を実感する経験だったといいます。
これからの自分へ
最後に、これからの目標について伺いました。
「ずっと関わっていける歯科衛生士になりたいです」
健康な人も、そうでない人も。その人なりの健康観に寄り添いながら、支えていく。
「予防はどの段階からでもできると思うので、その方に合った関わり方をしていきたいです」

未来の歯科衛生士へのメッセージ
これから歯科衛生士を目指す人に向けて、こんな言葉を残してくれました。
「実際に自分でメンテナンスを受けてみることが大事だと思います」
医院によって、やっていることも、時間の使い方も、関わり方も違う。
「体験してみると、イメージが全然変わると思います」
条件だけでは見えない、“医療の中身”。
それを自分の目で確かめることが、最初の一歩になるのかもしれません。

【編集後記】
岩﨑さんの言葉を通して見えてきたのは、 「継続は自然には起きない」という現実でした。
だからこそ、関係性をつくる。対話を重ねる。そして、ときに待つ。
その積み重ねの中で、患者さんの中に変化が生まれていきます。
担当歯科衛生士とは、単に患者さんを“管理する”存在ではなく、 「関係を設計する存在」なのかもしれません。
このは歯科の診療は、 一人ひとりの患者さんとの関係の中で、静かに育っていきます。
そしてその中心には、考え続け、関わり続ける歯科衛生士の姿があります。




