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ヘビメタ世代が抱える危険

 音楽のヘビメタ、つまり、ヘビーメタルは1960年代に誕生し、全盛期が1980年代といわれます。この時代を乳児期から青年期にかけて通過した世代は、偶然にもお口の中にたくさん金属(メタル)を抱えていて、「ヘビメタ世代」と歯科界の一部では呼んでいます。

 なぜこの世代に金属の修復物が集中したのでしょうか?金属修復物の多くはむし歯治療の結果です。むし歯は一種の文明病で、高度経済成長とともに食生活が豊かになり、砂糖が手軽に手に入るようになると、爆発的に増加しました。歯を削る道具や接着剤の発達もあり、以前なら抜いていたむし歯に罹った歯も、一部を削って金属で補う手法によって延命できるようになり、「早期発見・早期治療」の概念が浸透して、少しでも疑わしい着色まで削って金属で詰めることになりました。

 一方、1980年代以降に生まれた世代には、白い樹脂製の詰め物・被せ物(コンポジットレジンやセラミック)の登場で金属が使われることが徐々に減りました。2000年代以降になると、学校歯科検診で鋭い器具を使うことが避けられ、初期のむし歯に対しては丁寧に扱いながら経過観察するという概念に変わり、フッ化物入り歯磨き剤の普及がさらにむし歯の数を減らしました。このような時代の変化によって、金属だらけの口にならずに済んでいます。

 ヘビメタ世代だけが、人類の長い歴史を振り返っても、きわめて稀な口腔内の様相をしています。ほぼすべての奥歯に金属が装着されている状態は、医学的にも前例のない光景といえます。このヘビメタ世代の皆さんが中高年を迎えると、ある深刻なリスクが忍び寄ってきます。それが「歯の破折」で、その中でも特に、歯が根っこから割れてしまうことです。

 神経を抜いた歯に行われる金属の芯(メタルコア)がその原因になりがちです。神経を失った歯はもろくなります。日本の保険診療では、芯と歯を接着するセメント(グラスアイオノマーセメント)が使われるのですが、長年の使用でそのセメントが少しずつ溶けていきます。すると金属の芯が固定されないまま歯の根の中でわずかに動き、噛むたびに楔(くさび)のように壁が薄くなった根を内側から打ち続けることになります。

 こうして割れた歯はほとんどの場合、抜歯するしか手がないという現実です。むし歯や歯周病で歯を失う場合とは異なり、ホームケアで防げるという性質のものではありません。

 以前は、破折が起きるよりも先に、むし歯や歯周病で歯を失うケースが大半でした。ところが予防歯科が普及し、歯のメインテナンスを続けていると、むし歯や歯周病は防げて歯はより長く残るのですが、破折は防ぎきれないという現象が起き始めています。スウェーデンの長期歯科研究でも、メインテナンスをしっかり受けている患者の抜歯原因が破折へとシフトしていくことが報告され、注目されました。

 歯を治療すればそれで安心という訳ではなく、破折という時限爆弾を抱えているようなもの、やはり、削る前からの予防歯科が最適であることを痛感します。


写真説明

ヘビーメタル音楽の流行を通過した「ヘビメタ世代」はお口の中にもメタルがたくさん。


参考文献


  • Axelsson P, Nyström B, Lindhe J. The long-term effect of a plaque control program on tooth mortality, caries and periodontal disease in adults. Results after 30 years of maintenance. J Clin Periodontol. 2004 Sep;31(9):749-57.


筆者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子
NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得

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