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“シナモンロール”ってなぁに?

 本コラムの中で「スイーツよ、さようなら」 というタイトルのものを読まれた方から、ほぼ全員といっていいほど「分かってはいるけど、私には無理です」という正直なコメントをいただきます。皆さんも頷いていらっしゃるのでは? これは全く否定できないことで、一度甘い物に慣れたが最後、人間の脳はそうそう簡単に断ち切ることはできない仕組みになっています。おそらく、ヘビースモーカーが禁煙するよりもスイーツ断ちは難しいでしょう。

 しかし、私はスウェーデンの歯科専門家や知識階級の間で、子どもたちから甘い物を遠ざけている様子を見て、スウェーデンでの健康意識の本気度を感じました。生まれてからケーキを口にしたのは友達の誕生会によばれた数回のみの4歳児とか、夕方以降に出されるデザートは進んで断る食べ盛りのティーンエイジャーなど、私の子ども時代には考えられないことでした。

 日本は欧米の肥満率に比較してかなり低く抑えられているものの、冒頭のように成人になってからの食習慣の変更が難しいことを考慮すると、今日、生まれた赤ちゃんには苦労させないように、周りの大人たちが本気になってほしいです。そう願いながら、最近、感動したエピソードを一つ。

 ある歯科専門家と、日本とスウェーデンの、シナモンロールの違いを話していた時です。日本のシナモンロールは写真のように甘い甘いアイシングがベットリかかっています。スウェーデンのシナモンロールではそのようなものは見たことがなく、ほのかに甘い味付けはされていますが、シナモンの強い風味が残っています。「これ(アイシング)って余計なんだけど」と私が言うと、横からその歯科専門家のお子さん(5歳)が、「シナモンロールってなぁに?」と。

 実はこのお母さん、パン屋さんにお子さんを連れて行っても菓子パンコーナーは素通りし、砂糖の入っていないパンのことだけを教えてあげてきたそうです。そう、「シナモンロール」なんて知らなくていいのです。大人になった時に、全力で甘い物を遠ざけてくれたお母さんを誇りに思ってほしいです。案の定、そのお子さんはむし歯ゼロとのこと。この先もむし歯になる確率は低いでしょう。素晴らしい健康の財産ですね。

 私の友人にも同じように育てられてきた人がいました。家にソフトドリンクがなかったので、その存在を学校に入るまで知らなかったとのこと。おかげで他の子どもたちよりソフトドリンクに関する情報の遅れを感じて親を恨んだそうですが、高校を卒業する頃には自分はそれだけ大切に育てられてきたということに感謝し、自分の子どももそうやって育てたいと思っているようでした。

 食品会社はあの手この手、心理学的手法まで使って、消費者を洗脳してお菓子やソフトドリンクの消費量を増やすための企業努力をします。営利組織ですから仕方がありません。今の子どもたちが成人する未来を想像すると、日本でもスウェーデンでも他の国でも、WHO(世界保健機関)の「糖類摂取ガイドライン」(2015年)を目安に糖類の適切な摂取量を考慮する家庭と、そうでない家庭との健康格差はますます広がるのではないでしょうか。


写真説明

日本で購入したシナモンロール。甘いアイシングがかかっていました。


参考文献


  1. NCD Risk Factor Collaboration (NCD-RisC). Worldwide trends in underweight and obesity from 1990 to 2022: a pooled analysis of 3663 population-representative studies with 222 million children, adolescents, and adults. Lancet. 2024 Mar 16;403(10431):1027-1050.

  2. World Health Organisation. Guideline: sugars intake for adults and children. Available from: http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/149782/1/9789241549028_eng.pdf

  3. Lustig RH, Schmidt LA, Brindis CD. Public health: The toxic truth about sugar. Nature. 2012;482(7383):27-29.

筆者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得