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赤ちゃんの口腔ケア(2)

 前回のお話では赤ちゃんの口腔ケアの大失敗で終わりましたが、仮にそうなってしまっても、ポンポンとお口の回りを優しくタッチする段階に戻って、お子さんの仕上げ磨きに対するイメージを刷新してください。むし歯は年単位で進み、初期むし歯は元の健康な歯に戻る可能性がありますので、1、2週間足踏みしたとしても、そんなに焦る必要はありませんよ!

 最初に生えてくるのは前歯の下の歯、そして上の歯です。特に、上の歯は上唇で隠れがちなので、赤ちゃんが嫌がらない程度に、上唇を優しく上の方にめくって、フッ化物配合歯磨剤を歯ブラシで塗ってあげてください。

 お口の中のバイ菌の構成は人それぞれ驚くほど違い、たまたまむし歯菌をたくさん持ってしまっている人には不公平な話なのですが、その不公平を賢く避けるチャンスが、歯が生えてから2歳半くらいの時期にあります。ターンオーバーのない「歯」というバイ菌たちにとっては最高に安定した足場を得て、その陣取り合戦を繰り返しながら2年間かけてテリトリーが決定していくようです。むし歯菌の代表選手であるミュータンスレンサ球菌は特に固形の面にピタッとくっつく能力が高く、歯にしがみついて特等席を占領するのでしょう。

 この時期、もしもお母さんのお口の中にむし歯があったら要注意! そのお母さんが噛み砕いた食べ物を赤ちゃんにあげたり、おしゃぶりをお母さんが舐めてきれいにしたり、赤ちゃんとお箸の共有をしたり、赤ちゃんの唇にキスをするというような行為を避けることで、お子さんが不公平な人生を歩まなくてよくなるかもしれませんよ! むし歯菌の母子感染については、日本の10か月児歯科相談時のあるアンケート調査で、何と97.1%ものお母さん方が知っていたとのことで、多くの人にとって説明無用かもしれませんね。

 さらに言えば、唾の中には微生物が何十億とウヨウヨしていますので、大人の体調が悪い時には、全身にも悪さをする菌やウィルスがたくさん存在しているはず。それらを赤ちゃんに伝播させない配慮はとても大切です。興味深いことに、歯が生えてから2歳半くらいの時期というのは、お子さんの全身の免疫力もとても弱い時期と重なりますので、この時期にむし歯菌の伝播を防ごうとする努力は全身にとっても一石二鳥なのです。それを表すかのように、この時期に赤ちゃんにキスをしても赤ちゃんは嫌がっていたりするのも、何となく生命力の神秘を感じるところです。

 最初の歯科医院への来院はお子さんが1歳になるまでに。この時もゆっくり慣れていってもらいます。最初は挨拶から。スタッフやかかりつけ歯科医と握手をしたり、歯科で使う器具を触ったり、エアをシュッと手にかけてもらったり。そのうち歯科で使う柄のついたミラーを唇や舌にそっと当てられても、その冷たさに慣れてびっくりしなくなるでしょう。お口を開けられなくてもいいんですよ。歯科医院が楽しいところで、ここの大人は嫌なことしないなと分かったら、必ずパカッと開けてくれます。ここまでできれば、KEEP 28への未来はとても明るいです。


写真説明

アイルランドのパブで楽器を触る幼児。大人の持つ物に興味津津なお年頃です。もちろん歯科器具にも。


References


  1. Caufield, P. W., Cutter, G. R., & Dasanayake, A. P. (1993). Initial acquisition of mutans streptococci by infants: evidence for a discrete window of infectivity. Journal of dental research, 72(1), 37-45.

  2. American Academy of Pediatric Dentistry. Perinatal and infant oral health care. The Reference Manual of Pediatric Dentistry. Chicago, Ill.: American Academy of Pediatric Dentistry; 2022:277-81.

  3. 福田英輝, 北野久枝, 志方朗子, 伊東芳郎 and 齋藤俊行, 2006. 妊産婦における歯科に関連した知識の普及状況. 口腔衛生学会雑誌, 56(5), pp.709-713.

筆者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得