高橋周一先生:レミントン歯科
高橋先生が歩んだ道、深めてきた学びについて
高橋先生が歯科医師を目指したきっかけや動機について教えてください。
子どもの頃、自然の多い山里に住んでいたこともあり、遊び道具は自作の竹トンボ、竹馬、凧、弓、矢など自然の中にある素材で自由に遊んでいました。また、父が教育熱心で塾に通わされていたのですが、正直、やらされ感満載の勉強は好きになれませんでした。自分のやりたいことが具体化できる道具作りはとても楽しく、おかげさまで手先は人並み以上に器用になったようです。
高校生の時、柔道で鎖骨を脱臼し柔道整復師による施術を受けたのが医療に進もうとしたきっかけです。ちょうど3年生の受験期にケガをしたため右腕が使えず、左手でも食事ができる程になりましたが、不勉強の極みもあり受験は大失敗に終わりました。漠然と医歯薬系の予備校に通うも医学部にはなぜか興味が湧かず、当時出会った人々の多様性に魅かれる中、幼少の頃から好きだった手先を使うことを活かせる医療である、歯科医師の道が開けました。
高橋先生は明海大学歯学部を卒業後、東京大学医学部歯科口腔外科に研修医として勤務されていました。これらの経緯・動機・学びについてお聞かせください。
大学を卒業後、自由診療主体の診療所に勤務しましたが、当時話題になり始めていたインプラント治療に興味が湧き、外科的手技を学ぶために非常勤で研修をさせていただきました。東京大学には歯学部がないのですが、形成外科出身の教授が在籍する口腔外科があります。かつては医科、歯科のダブルライセンスを持つ多くの先生方が学ばれた環境でした。医科の教授に指導を受けた際、「歯科の先生方は、歯だけを見ているようでもったいないですよ。口腔は未知の部分がある宝の山です。歯科の先生方がやらないのであれば医科が取っちゃいますよ。(笑)」と冗談半分とも取れるアドバイスをいただいたことを今でも思い出します。大学の診療環境は一般開業医とはあらゆる面で違い、また当時の設備はかなり古かったのですが、大学病院の特殊性や問題点も学ぶことができました。
高橋先生がオーラルフィジシャン育成セミナー第1期を受講されたきっかけや動機についてお聞かせください。
第1期が開催されたのは2004年なので、既に10年以上前になります。それまでにも熊谷先生のお話を聴き重ねては、いざ診療の現実に戻ると試行錯誤の連続でした。(今でもそうですが・・・)
チームミーティングでOPセミナーが始まると聞き、真っ先に申し込みました。かつての私の診療所は紛れもなく、その場しのぎの保険治療中心型で、予防歯科の必要性・必然性を認識すればするほど、現実とのギャップに心身共に疲労度が増してきていた時でした。
第1期と現在では、内容はかなり変わっているとは思いますが、MTMの実践に向けての取り組みが始まった大きな1歩でした。その後も海外研修などを重ねてOPセミナーの受講医院が大きくジャンプし、OP医院として新しくスタートをしているのを嬉しく思います。比べて当院は亀の歩みと言うべきでしょう。3歩進んで2歩下がる・・・しかし、決して諦めず、100年後~その先を見据えて改善を重ねていきます。今期の60期のOPセミナーには新しいDr.やDHが参加し、更なるステップアップを目指しています。
予防歯科の実践について
貴院が予防歯科を実践する上で軸にしているMTM(メディカルトリートメントモデル)を導入された理由や一般的な予防歯科との違いについて教えてください。
MTMの導入、実践は、既存の保険診療に浸っているほど大きな壁が存在します。保険の診療には、「歯を守る、守り続ける~生涯の健康に大きく寄与する」という概念が存在しません。出来高制で質を追求せず、むし歯や歯周病になってから、「さあ、安上がりに治療しましょう」という制度です。多くの国民が簡単に治療を受けられるという点ではメリットがあるでしょうが、再生治癒能力がほとんどない歯を中心とした治療には、治癒という言葉に無理があります。事が起こってからでは既に遅いことがわかっているにも拘わらず、予防策には本気にならない日本の体質が引き起こした縮図が歯科の疾病保険診療です。
患者さんもその最重要事実に気が付いておらず、情報を得ても真剣に取り組まない手っ取り早く安く治療を済ませてほしい。」という要望が大半です。他の業界においても、日本の美徳は失われ、「ばれなければOK。とりあえずやっておきましょう。」の風潮が蔓延し大事な伝統文化も崩れ去ってきました。口を大きく開けて笑えない、口臭がする、などの海外の先進諸国から見れば異常事態が進行しているにも拘わらずです。
かつての私が行ってきた保険診療は頑張って治療をすればするほどに、患者さんの歯が人工物に代わっていきました。これでは医療とは言えません。治療後は治療前よりかめるようになりますが、原因を除去しなければ、必ず「再発~より悪くなる」という流れになります。
歯科治療には、患者、治療側の双方に心身ともに大きなストレスがかかります。加えて全身に及ぶ医療費が増え、42兆円を超える国民医療費が国の存続を脅かすほどになってきました。我々歯科医師、歯科衛生士をはじめとした歯科医療従事者が真剣に国民の生涯に渡る健康を考え実践していけば、必ず本当の意味での健康寿命が延び、医療費は減っていくことでしょう。MTMを実践するOP歯科診療所には、日本の歯科事情を知り、日本人の健康に寄与し、日本の未来を担う使命感が不可欠であり、そのために診療環境、設備、スタッフの教育に時間と経費を重ねていかなくてはなりません。一般の予防歯科と表記されるだけではなく、各医院の院長の覚悟のもと、孤軍奮闘の連続であると考えます。
患者さんが予防歯科の重要性を理解して継続的にメインテナンスに通ってもらうため、貴院が行っている取り組みについて教えてください。
初診時におけるMTMの説明だけでは継続的なメインテナンスは続きません。来院される患者さんは主訴も歯に対する意識も様々です。人は様々な事情により物事の価値観を判断しているため、予防歯科診療の重要性をお伝えし、その結果、患者さん自身がその価値・必要性を自分の中で本当に認めた時、自主的にメインテナンスに通院し始めます。
口腔衛生の価値を逆転させるようなコミュニケーションスキルが必要となります。
担当、Dr.やDHはもとよりスタッフ全員が同じ方向性で患者さんに対応しなければならず、毎朝の朝礼、月1回の院内のミーティングをはじめ、年に3~4回のセッションという時間で問題点の改善、症例発表、勉強会参加の報告事項などを共有し、患者さんのモチベーションアップに繋げています。チームミーティングにも毎年継続して参加しています。グローバルな視点で足元を見直すにはとても良い機会です。
また、月に1回程のペースで患者さん向けのセミナーを開催し、「予防歯科~全身の健康」の重要性をお知らせしています。
参加される方々の都合により人数や年齢層はまちまちですが、聴講された方と何となく通院している方の意識の差は大きいため、今後は何らかの形で通院される全ての患者さんに聴いていただけるようにしていきたいと思います。
また、KEEP28を達成するためには、子どもの頃からの予防が非常に重要です。貴院ではどのような流れで小児予防・矯正を実践されていますか?
残念ながら 小児予防については近隣の小児歯科に委ねているのが現状です。
ユニット数7台の同じ空間で、小児と成人の予防~治療~メインテナンスの流れを構築することに限界を感じており、矯正専門医とともに全体の流れの中で混在して行っています。
予防歯科として、崩壊してしまった口腔内環境を改善することは容易ではありません。
家庭、学校での予防教育に期待ができない以上、幼少の頃から予防教育をどこかで整えていかなくては、真の意味での予防歯科の環境を整えることは難しいでしょう。健口~健康の意味、価値観を備えた子どもたちが親になり、家庭でも自然に歯を守っていくことが当たり前になるように図っていかなくてはなりません。医院全体の移転は様々な点で困難なため、現在小児部門のための新医院開設を模索中です。
採用・教育・マネジメントについて
現在オーラルフィジシャン歯科医院では、歯科衛生士の採用・雇用に苦労されている医院が少なくありませんが、貴院で工夫・重視されていることを教えてください。
当院でも、歯科衛生士の安定した雇用は大きな問題です。採用しただけではOP歯科としての歯科衛生士業務はなかなか難しく、必ず再教育が必要になります。女性が生涯の仕事として歯科衛生士を続けることは、現在の日本では易しいことではありません。OP歯科での歯科衛生士としての知識、技術、何よりも人間性を磨いていかなくては、患者さんの生涯の健康をサポートすることはできません。
就業規則、労働基準法を厳守しておりますが、個人的な理由によって退職する度に次の歯科衛生士の採用、教育には大変な労力を使っています。ホームページ、ハローワーク、歯科衛生士学校などの採用媒体を利用していますが、採用~雇用に至る歯科衛生士の殆どが予防歯科での職務を希望しています。Dr.もしかりですが、資格を取る前の学校教育時代に目覚めてもらえると良いですね。東京では歯科衛生士の勤務先は沢山ありますが、OP歯科への勤務に興味を持っていただけるような情報発信とそれに伴う環境の整備に努め、退職する歯科衛生士の紹介やOP歯科医院としての認知度で働きたいと希望されるようにしていきたいと思います。OP歯科のための歯科衛生士学校を皆で協力して作ってしまうなんていう夢があってもいいかもしれません。
予防歯科の実践にチームワークや目的意識の共有は必須ですが、教育・マネジメント面で大切にしていることを教えてください。
目的意識の共有には院内ミーティングや日々の朝礼などで何度も伝えています。良好なチームワークには互いの思いやりのある言動が必要ですから、常に心がけるように伝えています。
人柄や性格を変えるというのは想像以上に難しく、勤務した当初はまだしも、馴れてくると持っている性格がじわりじわりと出てきてスタッフ間でのコミュニケーションに問題が出ることがあります。私の性格が甘いものですから、厳しく注意することがほとんどないため、逆にうまくいかないことが多くあります。人間としてのマナーである、挨拶、返事、言葉遣い、特に他人に対しての思いやりのない言葉遣いや発言をすることはしないように日々注意をしています。1日のうちの大半の時間を一緒に過ごす職場ですから、心身共にやりがいのある環境を全員で目指していきたいと思います。マネジメントについては新人のうちは仕方がないとしても、キャリアを積むと同時に、時間とあらゆるコストに気を配れるように注意しています。質の高い仕事を、能率、効率よくこなしていきつつ、後進の模範となるような人財となることを期待しています。いずれ私が医院にいる時間が少なくなっても、スタッフが協力して自分たちの職場の環境を改善し続けるようにしていかなくてはいけないと思っています。
院内、院外における教育の中で最も重要なのは、診療の哲学を学んでもらうことだと思います。予防メインテナンスが最も重要な理由、OP歯科衛生士としての使命のようなものを感じ取ってもらえれば自主的に学び始めるため、そこまでのモチベーションを継続できるかが院長としての力量なのでしょうが、一番の難関かもしれません。
専門医との診療上の連携について
貴院には専門医が在籍していますが、診療上の連携について教えてください。
当院では院長をはじめとしてGPの勤務Dr.が数人在籍していますが、保険診療、自由診療の区別は難しいです。材料の違いは誰でもわかるところですが、治療の技術や結果は各Dr.によって違います。保険診療ではどのDr.が治療をしても診療報酬に差がありませんが、治療の難易度が上がれば上がるほど結果の差が歴然と出てしまいます。
日本ではGPが何でも処置をする傾向が強く、私もあらゆる分野の習得に沢山の時間を費やしてきましたが、やはり広く浅くになりがちでした。そもそも卒業後の知識、技術の研鑽を重ねていく過程は未熟な状態であるため、責任をもって診療の質を上げるためには一定の技量を持った専門医との連携は必須です。専門医の技量も様々ですが、私の経験から信頼のおける専門医として、非常勤の矯正専門医、院外の歯内療法、口腔外科、小児歯科専門医との連携を取っています。幅広い勉強を重ねてきたことで、自分を含め勤務Dr.の力量と優秀な専門医の力量の判断はつくようになり、無理をすることなく全体の診療の質を上げ、維持できています。専門医に依頼することにより、私が院長として他の診療に関わる時間が持てるようになって心身ともに負担も減りました。
分院との住み分けについて
貴院の近隣にあるS.P.DENTALとの住み分け、連携について教えてください。
治療型診療室から予防メインテナンスに軸を置いた診療に移行する中で、ユニットの増設は大きな問題です。都市部では規模拡大のための移転にはかなりの覚悟とリスクが必要です。既存の患者さんに対する責任も考慮すると遠方での開業は考えられませんでした。物件もなかなか見つからなかったのですが、少しでも診療環境改善を模索していたところ、隣接したテナントが空きました。ちょうど自由診療、自費メインテナンスへの移行を考えていたため、レミントン歯科での保険診療を経て自由診療、自費メインテナンスへ移行する患者さんを中心とした診療体制をとっています。しかし、全体としてはやはりユニット数が足りず、次なる打開策を検討しています。
診療データの提供について
クラウドサービスを利用して診療情報を患者さんと共有することに対しての患者さんの反応、スタッフの労力、その効果などを教えてください。
クラウドサービスにより患者さん自身の診療データ(当院ではまだ、レントゲン、口腔内写真、各種検査結果データがメイン)を共有するということが紙媒体からデジタルデータとして鮮明、かつ低コストでできるようになりました。当然新しい取り組みとして患者さんは驚き、喜んでいただいています。スタッフの労力は増えましたが喜んで取り組んでくれるスタッフのおかげでコツコツと内容の充実を図っています。まだまだ可能性が広がっていくシステムですから、可能な限り多くの患者さんに利用していただき、セルフケアへの更なるモチベーションアップに繋げていきたいと思います。また幼少のころからのデータの保存は患者さんの「健全な口腔~生涯に渡る健康維持」を認識できる最も身近な視覚的データとなり、貴重な財産となるでしょう。
今後の展望・展開について
今後の展望・展開についてお聞かせください。
予防歯科、OP歯科としての診療所づくりを意識してから、乗り越えなければならない壁が多く出てきています。今でも、そしてこれからも出てくるでしょうし、それが終わることはないでしょう。
処置とは違い予防メインテナンスに治癒はありません。患者さんの人生のステージに合わせ、医院も質的向上を求められます。OP歯科への受診は、その場しのぎの処置を望まれる多くの患者さんに、全く真逆の【治療を必要としない口腔内環境の維持が当たり前】と認識していただくまでに意識を変えるという、困難でありながらインパクトの強いチャンスです。人口は減り続けていますが、国民医療費は42兆円を超え、なお増え続けていくことにより、既に日本の未来は危うくなっています。まさに、健全な日本の未来を変えられるのは、衛生的で健全な口腔内を維持する国民でしかありません。そのためにも、OP歯科として世界の注目を浴びる程に、世界で最も健全で美しい口を維持する国民が多い国にしていきたいと思います。
また、これからの若いDr.やDHなどの歯科医療従事者のため、教育、育成ができる環境の診療所の開設を目指しています。