福田幹久先生:福田歯科医院
人生をより豊かにするオーダーメイド治療
貴院は2021年5月に「自由診療型」の歯科医院へと移行されますが、そのための患者理解をどのように求められてきましたか。
当院が自由診療型の医院に移行するにあたり、その準備は数段階に分けて行ってまいりました。まずは5年前に、3年かけて健康な患者さんのメインテナンス費用を自費化し、その後2年間で全ての初診も完全自費化へと移行しました。また、保険診療においても、診療内容こそ制限があるものの、自由診療と同様のクオリティーで提供してまいりましたので、想定よりも自由診療化に対する理解は得られていると思います。実際の流れとしましては、担当医や担当衛生士、コンサルテーションより個々の患者さんにご説明を行い、ご理解いただいているというのが現状です。
その患者説明も1月から5月までの期間を使い、時間をかけて行ってまいりました。しかしながら、全ての患者さんが温度差なく理解してくださるとは限りません。今後5月以降にも新体制を実践しながら、患者さんの理解が深まってくださればと思っております。
貴院が提供する「“オーダーメイド”の予防・治療計画」には多くのメリットがあると思いますが、その具体的な内容について教えていただけますか。
これはもうメリットしかありません。わかりやすく言いますと、歯や口腔内の状況は、個人が特定できるほど千差万別であるため、本来歯科医療はオーダーメイドであるべきです。従来は医療制度ありきの考えによって、歯科医療提供者は「制度の中に個々の患者を当てはめる」ということに、知らぬ間に縛られていたのかもしれません。しかし、本来は患者さん毎に規格性のある資料を提供し、口腔内状況を説明することが必須なのです。それに加えて、治療計画や予防教育のコンサルテーションを実施することで、患者さんは皆オーダーメイドの歯科医療の重要性に気付かれます。
最近では私たちが思う以上に、患者さんはご自身の口腔内状況を理解されていると実感しています。また、そういった素地の上で提供される治療計画は、患者さん自らが欲するものを選択することになるため、治療や予防に対しても、積極的に参画してくださり、アウトカムもよくなるように思います。
患者参加を促す、予防歯科・患者教育の実践について
「人生100年時代」の支え手として患者さんと一生のお付き合いをしている貴院が、健康寿命の延伸のため取組まれていること(ライフステージにあわせて)は何でしょうか。
「人生100年時代」というキーワードが世で叫ばれるようになり、歯周病と全身疾患、オーラルフレイル、睡眠時無呼吸症候群、誤嚥性肺炎など、様々な観点で歯科医療が注目されるようになりました。おそらくこの流れは今後加速していくと思われます。
この背景を踏まえたうえで、単に有病者歯科的視点ではなく、本当の意味で健康寿命を延伸するための歯科医療には、人生の全時間軸に対して、継ぎ目のない予防教育が提供されることが重要であると考えます。なぜなら人生100年時代において、私たちが対応する疾患や問題は、「ある日突然生じたもの」ではなく、「多くの場合は健康なうちに蓄積された問題が大きくなり表在化したもの」と言えるからです。
つまり、それぞれのライフステージに合わせた予防教育こそが必要であり、若いうち健康なうちの素地作りが重要なのです。そして、それは口腔内細菌感染という視点はもとより、口腔機能の発達、顎口腔の発育、食生活や生活習慣、ストレス、睡眠など、より生活背景に踏み込んだ視点が必要になってくるでしょう。
以上のことからも、当院では0歳から100歳までを10のライフステージに分け、各ステージで行うべき予防教育について、従来のカリオロジー、ペリオドントロジー以外にも実践しています。そして、そのステージに特有なトピックも加えて予防教育プログラムを作成し、これを継ぎ目なく行うようにしています。
貴院では患者さんを中心とした、“結果につながる歯科医療「P-4アプローチ」”を実践されています。患者参加型として軌道に乗せるためへのご苦労や工夫がございましたら教えてください。
患者参加型として軌道に乗せるために行ってきたことは、まずMTMを100%実践することです。これは、当院も愚直に長年行ってきたことですが、MTMをフィロソフィーに則り実践することで、来院時の患者参加はしっかりと達成できるように思います。
また、効率を度外視することも重要でした。患者参加型として成功するには、診療の要所要所でしっかりとした説明や教育があることが重要で、単に情報提供が行われるのではなく、現状を共有し患者とともに考えるということを繰り返す時間が必要だと思います。
さらに、非来院時には富士通クラウドサービスなどを活用し、プライベートのニュートラルな患者さんにアプローチすることで、患者さん自身の積極的な参画を反芻することも有効であるように思います。
付加価値を生み出すクラウドサービス
クラウドサービスについて、口腔の健康を「自分事化」するための非常に重要なツールとして活用されていますが、導入から4年経過した現在、作成する患者情報の内容に変化はございましたか。
クラウドサービス導入時にはテンプレートを使用しており、お口の健康ノートのデジタル版といった活用方法でしたが、現在は当院独自のフォーマットを作成し運用しています。新たなフォーマットには口腔状況、リスク、セルフケア時のポイントなどをより詳しく記入し、患者さんに提供しています。
また基本治療後には、全ての患者さんに対して行う、カンファレンス時のコメントなども送信しています。この新規フォーマットでは、患者さんのライフステージごとに内容を改変し、それぞれの年代にとって重要な「口腔と全身の健康」に関するコンテンツを送信しております。
以上のことからも、クラウドサービスを活用し、患者さんに画像や動画などのコンテンツを提供することで、より「自分事」として理解を深められるということも、大きなメリットだと考えます。
また患者さんが来院されていない期間もクラウドサービスを通じて情報を発信されているとお聞きしました。来院時の情報とどのように差別化を図っているのでしょうか。
当院では全ての患者さんに対して、リスク検査後と初期治療後にカンファレンスを実施しております。その際、歯科医師と担当衛生士が、基本治療によるペリオの改善状況、リスクの変化、注意が必要なリスク因子などについて、ディスカッションを行う体制を取っており、その内容はクラウドを介して患者端末に送信しております。そうすることで、患者さんが来院されていない時でも、当院が個々の患者さんの口腔内の健康を真剣に考えていることが伝わりますし、患者さんのモチベーションアップにも繋がります。さらには 来院時に担当衛生士が行う患者教育にも、より一層の価値が付加されるように思います。
実際に患者さんの反響やどのような効果がございましたか。
反響といってよいのかわかりませんが、以前より口腔の健康の維持獲得に、積極的に取り組んでくださる方が増えたように思います。個々の患者さんに対する当院の想いが、より深く伝わり、患者・衛生士間、患者・歯科医師間のコミュニケーションが、より強固になりました。
今後の展望・展開について
貴院は地域の中核を担う歯科医院として、開業以来40年以上に亘り11,000名を超える市民の口腔を守り続けてきました。継続的に通っていただくこともそうですが、患者教育を行動変容に繋げるための取り組みについて教えてください。
当院の全てのシステムは、患者教育を行動変容に繋げるためのものです。保険診療の場合、そのルールが患者利益と相反することも珍しくありませんが、自由診療化へと移行後は、患者さんにとって本来必要であるが、提供できなかったこと(十分な時間をかけた患者教育、包括的な診療、包括的予防)が実践できるようになり、日々患者教育の効果を実感しています。
また、当院に通われる全ての初診患者さんに対して、初診資料採取時、基本治療後に、担当医と担当衛生士でケースカンファレンスを行なっています。これはしっかりと時間を確保し、担当衛生士が院内症例発表フォーマットに則り、プレゼンを行うためにも必要なのです。その際、深いディスカッションが行われることも多く、これが患者教育と行動変容に活きているのだと思っています。
最後に、自由診療化に移行したことで、当院全員がアウトカムに正面から向き合うようになりました。このことは「普通以上のもの、当院にしかできないものを提供する」、「普通以上に、当院にしかできないレベルで患者さんをうまく導く」という、マインドセットが根底で共有された結果だと思っております。患者さんには、この院内マインドや来院体験を実感していただき、次回来院されるまでの間は、富士通クラウドサービスを利用し、日常生活の中で再度モチベーションアップ図るといった仕組みが相乗効果を生み、行動変容へと繋がっているのだと思います。
予防歯科をさらに社会に普及させるためには、どのような取り組みが必要になるか、アイディアやご意見がございましたらお聞かせください。
歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、一人一人がスピーカーではなく真のプレーヤーになる。保険というルールにすがるのではなく、「歯科医療のあるべき姿」は「正しい歯科医学」が描けるような時代を作る。それには、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、一人一人が立ち上がらなくてはならないと思います。
幹久先生が描く今後の目標・展望について教えてください。
5月以降の新体制を成功させ、健康な人生に寄与したと思える歯科医療を、嘘偽りなく実践し続けることです。規模は小さくとも、人生の時間軸に沿った健康創造のため、継ぎ目のない歯科医療を実践し、それがモデルケースとなり、患者様お一人お一人のお役に立てればと思っています。
また私自身が、院長である父の年齢になり、臨床を振り返った際には、良い歯科医療を実践できたと言えるようにしたいです。それが生涯を通しての目標であり、結果として、函館の皆さまの健康を守ることに繋がると考えております。