徳永涼先生:サルースデンタルオフィス
自身の体験から予防歯科を志す
歯科医師を目指そうと思ったきっかけ・動機について教えてください。
父親が歯科医師でしたので、幼少期から歯科医療を身近に感じて育ちました。そのため「自分も将来、歯科医師になるのだろうな」という漠然とした思いがあり、その一方で人の健康に携わることに対する不安もあり、高校時代は進路に迷う日々を過ごしました。結果一浪し、医学系専門の予備校に入ったのですが、親が医師・歯科医師でないのに上京している人も多く、その人たちの「人々の健康を守りたい」「困っている人を助けたい」という志に刺激を受け、改めて歯科医師のやりがいに気付かされました。
一般的に削って詰めるといった「むし歯治療」から「予防歯科」に傾斜したきっかけや出来事はございますか。
歯科大生の時にむし歯になり父親に治療をしてもらったことがきっかけです。それまでほとんど歯の治療をしたことがなく、実際に歯を削られ詰め物を入れられた時に「自分の歯が無くなってしまったんだな」という強い喪失感がありました。それは部分的でしたが、一つの歯が少し無くなってしまうだけでも喪失感が大きく、改めて「歯」は一度削ってしまうと元に戻らないんだなと実感しました。むし歯になったからといって、自ら進んで歯を削ってほしいという人はいないと思います。ならば、むし歯にならない状態を作り上げればいいのではないかと思い、予防歯科の考え方に辿りつきました。
今後、オーラルフィジシャン育成セミナー(69期 2021年5月開催)を受講予定とお聞きしておりますが、その経緯について教えてください。
一般的に一度治療した歯がまた悪くなり再治療というケースが非常に多いです。そうならない様に精密な治療を行っているのですが、それでもやはり過去に他医院で行った治療箇所の病気が再発し当院でやり直すことも多いです。治療を繰返すことで歯は無くなってしまいますので、歯を削らない様にしたいという思いで日々臨床現場に立っております。
少し言い方は悪いかも知れませんが、日本の保険診療は疾病がメインのため、多くの方が悪くなってからでないと歯科医院には行かない傾向があります。このように、悪くなってから来院しようとする気持ちを助長する保険制度は、現場を預かる歯科医師としては一考の余地があるのではと思っています。少しでも歯を削らなくてすむような口腔内環境を作るには、さらなる「知識・システム・ツール」が必要だと思い、その最たるオーラルフィジシャン育成セミナーを受講したいと思いました。
予防歯科の実践について
貴院がある埼玉県戸田市の患者傾向の特徴を教えてください。また開院した当初(2015年)と現在の患者さんの口腔内の状況や診療二―ズに変化はございますか。
患者層は比較的若いファミリー層が多い印象です。また口腔内状況が悪い人も少なく、ご自身の口に対して意識の高い人が多いです。さらにご家族の紹介で通われる方も多く、主訴だけを対応する医院でないことを予め理解してくださっているのかもしれません。最近ではコロナ禍のテレワークによる平日の男性患者も増えております。
KEEP28を達成するためには予防歯科が非常に重要です。目標達成のために実践されていることがあれば教えてください。
まだ医院としては発展途上ですが開院当初から一貫して行ってきたことは、初診時にいきなり歯を削ることはせず、しっかり検査を行い悪い箇所を探し、口腔内の状況を把握したうえでブラッシング指導から始めることです。また最初から歯科医師が対応することなく、まずは衛生士がメインとなり患者さんとしっかりコミュニケーションを取りながら患者教育を行うことも開院時から一貫しております。
患者さんが予防歯科の重要性を理解し継続的にメインテナンスに通っていただくためにどのような取り組みや工夫をされていますか。
やはりご自身の口の中を知っていただかないと興味が湧かないと思いますので、如何に興味を持っていただけるかを常に考えております。特に力を入れているのが視覚に訴えることです。そのため口腔内カメラで口の中を常にお見せしながら治療を行っています。この考え方の延長で富士通クラウドサービスの導入も決めました。クラウドですと口腔内の変化が時系列で確認できますので、より効果的であると考えました。
また当院は担当衛生士制です。人の習慣を変えることは大変ですが、例えば1日1分しか歯磨きをしない人に10分磨いてもらうようにするのが衛生士の役目だと思っています。ただ、衛生士である以前に人として信頼されることが大前提です。信頼している人の話でないと聞く耳を持っていただけないと思いますので。同じ衛生士が患者さんと何度も顔を合わせコミュニケーションを取ることで信頼が高まっていくものだと思っています。
徳永先生は口元のアンチエイジングにも注力されていますが、予防歯科との相乗効果について教えてください。
予防歯科で口腔内が健康になると歯だけでなく歯茎もキレイになります。すると患者さんの笑顔も増え、今度は笑った時の表情筋やしわ、ほうれい線が気になり改善を希望される方がいらっしゃいます。口元をきっかけに顔全体に意識が向かうのを目の当たりにすると、予防歯科とアンチエイジングに相乗効果があるのを実感します。
今後、富士通クラウドサービスを導入予定ですが、導入理由は何だったのでしょうか。
患者さんと口腔内情報をデジタルデータで共有できる点が気に入り導入を決めました。医院内で口腔内情報をご確認いただくのは当たり前ですが、医院の一歩外に出ると確認できないことからも、従来歯科医院はクローズドな空間です。より透明性を持たせて患者さんに安心していただきたいという思いもありました。一方、スマホで口腔内写真も簡単に確認できるため、より高度な歯科医療を提供しなければいけないと、これまで以上に私だけでなくスタッフの意識も高まっています。
最後に貴院の今後の展望・展開について教えてください。
2021年5月よりオーラルフィジシャン育成セミナーを受講します。富士通クラウドサービスの導入もそうですが、医院として新たな一歩を踏み出す時期にきています。以前より患者さんの視覚に訴えて情報提供をすることが大事だと思っていましたが、情報量が多すぎても伝わりずらくなってしまいます。患者さんに伝えたいことはたくさんあるのですが、分かってもらえないと意味はないので、「一番大切なことをシンプルに伝えられるように」誰が見ても分かりやすく患者さん目線の情報を提供していきたいと思っています。