山根延仁先生:やまねセンター歯科
山根先生が理想の歯科医師象を見つけるまでの道について
山根先生が歯科医師を目指したきっかけや動機について教えてください。
私は、小学校から高校まで立教で学び、「隣人を愛せよ」、「共に生きる」というキリスト教の教育の中で学生時代を過ごしてきたので、将来は理系ではなく、人と人が触れ合う仕事がしたいと漠然と考えていました。しかし、父や祖父、叔父が歯科医師だったこともあり、歯科大学を受験してこの道に進みました。
山根先生は日本大学歯学部を卒業後、同大学歯学部補綴学教室総義歯補綴学講座を受講されました。これらの経緯・動機・学びについてお聞かせください。
学生時代、私は試験前にしか勉強せず、目指す歯科医師像も持っていませんでした。卒業後は大半の同級生が大学病院に入局する予定だったこともあり、私も大学病院に勤めることにしました。そして、学生時代に在籍していたゴルフ部の先輩がたくさんいる総義歯補綴学講座に入局しました。
最初の1年は学生時代と変化のない生活リズムでしたが、ある時、1人の先輩から「お前、何のために歯医者になったの!?」と言われ、その瞬間に自分の中のスイッチがONになりました!振り返ると、この一言が私の歯科医師のターニングポイントだったような気がします。
大学病院の総義歯の外来に来る患者さんの多くは、入れ歯が合わず開業医では手に負えない方々でした。そのため、そこでの歯科医師は、どのようにして痛みを感じずに食事ができる入れ歯を作るか、どのような型取りをするか、どのような人工歯を使うかなどを追求していました。その中で、私は「なぜ、この人達がこんなに歯を失ってしまったのだろう」、「患者さんが歯を失わないように努めるのが本来の歯科医師の仕事では」と漠然と思っていました。
健康な状態で歯を維持し、KEEP28を達成するためには細菌のコントロールだけではなく、力のコントロールが必要です。これから超高齢化社会が訪れることを考えると、総義歯の医局で入れ歯を作成し、歯の配列や位置、かみ合わせについて学べたことは、今になって大いに役に立つことであり、大変ありがたく感じています。
また、総義歯の医局に在籍していて、高齢の方々の口腔内を毎日診られたことも、私の医療哲学の構成にかなり影響しています。推理小説でいうところの、犯人を知ってから本を読むということでしょうか。
山根先生がオーラルフィジシャン育成セミナーを受講されたきっかけや動機についてお聞かせくだい。
総義歯の医局に在籍していたことで、私は天然歯の価値を痛感していました。大学病院に勤務されている歯科医師や先輩の歯科医師の間では、「こんな被せ物がいい」、「こんな薬がいい」、「こんな器械がいい」、「歯を抜くか、削るか」という会話がほとんどでした。ある意味当たり前のことですが、そんな歯科界にショックを受けていた時、歯科雑誌か何かの記事にて熊谷先生の取り組みや考え方を知り、すぐにオーラルフィジシャン育成セミナーを受講しました。さらに、熊谷先生が私の大学の同窓だと知り、気持ちが高ぶったことを覚えています。
予防歯科の実践について
患者さんが予防歯科の重要性を理解して継続的にメインテナンスに通ってもらうため、貴院が行っている取り組みについて教えてください。
以前はよくある歯科業界の新規患者さんの開拓方法に力を注いでいましたが、今はほとんどしなくなりました。その結果、新規患者数はかなり減りましたが、当院の考えや取り組みを理解して来院される患者さんが増えました。初めて来院される患者さんには、まずはDVDを観ていただき、初期治療の時間をしっかりと確保して、患者さんとの間で目標や価値を擦り合わせています。また、近くの保育園や幼稚園などで小さな講演会を時々実施しており、歯の価値に関する啓蒙活動を行っています。
今の時代、「健康」への意識は、歯科医師や歯科衛生士より、一般の方のほうが高いところがあるため、正しい情報をお伝えしてしっかりと話し合い、無理のない範囲でお付き合いできるよう努めています。また、「歯科医院の常識が、一般の非常識」と言われないように、医療現場として5Sを徹底しています。
また、KEEP28を達成するためには、子どもの頃からの予防が非常に重要です。貴院ではどのような流れで小児予防・矯正を実践されていますか?
KEEP28達成のためには、できるだけ小さい頃からの歯科来院(メインテナンス)が重要だと考えています。結婚前の女性や妊娠中の患者さんには、お子さんが生まれてから6ヶ月後に来院していただくようお願いしており、その通りに来院される方が多くいらっしゃいます。しかし、幼少期からメインテナンスを受けているにも関わらず、将来歯列不正になるのは、医院と患者さんどちらにとっても不幸なため、当院ではアンダー20というカテゴリーを作り、専任の歯科医師が必ずかみ合わせや歯列不正、習癖も確認しています。
現在、う蝕の数は減っている一方、歯列不正のお子さんは逆に増えています。成人になってから矯正歯科治療を行っても後戻りする可能性があるため、成長期を利用し、できるだけ患者さんに負担にならないような矯正歯科治療を提供しています。
また、ベビーカーにいる赤ちゃんが動いたり泣いたりすると保護者の方が集中できないことがあります。保護者の方に安心して治療を受けていただくため、当院には専任の保育士が常駐しています。
KEEP28を達成するためには、生涯メインテナンスを受け続けることが大切です。人生で来院が途絶えうる場面を医院でサポートするため、保育士の常駐に加えて訪問診療も行っています。
採用・教育・マネジメントについて
現在オーラルフィジシャン歯科医院では、歯科衛生士の採用・雇用に苦労されている医院が少なくありませんが、貴院で工夫・重視されていることを教えてください。
当院は、歯科衛生士学校の実習先になっており、臨床実習の学生がそのまま就職することが多いです。歯科衛生士学校に依頼される講演なども積極的に引き受けるようにしています。また、採用は新人を対象に行っており、既卒は採用していません。歯科衛生士学校の学生のアルバイトは人員が余剰でも採用しています。最近は、将来歯科衛生士を目指している高校生の患者さんがお掃除のアルバイトに来ています。
予防歯科の実践にチームワークや目的意識の共有は必須ですが、教育・マネジメント面で大切にしていることを教えてください。
月に一度、院内で症例検討会を行い、スタッフ全員の考え方を徹底的に擦り合わせています。また、先程もお伝えした通り採用は新人を対象としており、育成に力を入れています。現在、採用しているスタッフの大半が実習、もしくはアルバイトを通して当院の考え方、歯科衛生士の在り方に触れているため、理解が早いと思います。
また、女性が末長く働ける環境づくりを意識しており、当然のことですが、スタッフは労働基準法で定められた通りに有休、産休・育休などを取得できます。
専門的な治療での連携について
貴院には歯周病、口腔外科、矯正歯科、インプラント、根管治療の専門医が在籍していますが、診療上の連携について教えてください。
WHO歯科部長バームスの報告でもあった通り、先進国での歯科医療はメインテナンスが7割、治療が2割、1割が重度の治療になると言われています。当院では、その1割の重度の治療を行うために専門医が在籍しています。ただ、可能な限り重度で複雑な治療を避けるべく、9割は私たちGPと歯科衛生士で対応できるよう、常に患者さんにアプローチしています。
専門医には、まずは当院の医療哲学を理解していただき、それに基づいた治療計画を立案して診療しています。あくまでも、主軸はGPと歯科衛生士です。専門医によってスタイルは違いますが、年に一度は当院に在籍している専門医が集まり打ち合わせを行っています。皆さんお忙しい方々なので、普段は私たちが仲介役になり個別でコミュニケーションを取っています。また、日頃の症例に関しては、メールなどで頻繁に情報共有しています。
例えば、歯周病専門医とは当院勤務の朝、診療前に必ず1時間半の打ち合わせをしています。また、不定期ではあるものの、論文抄読や疑問点、症例相談などに関するディスカッションを歯科医師と歯科衛生士で行っています。
歯周病専門医には、外科治療に加えて、SRP後の残石確認や正確な検査、レントゲンや論文の読み方、患者さんのメインテナンスへのモチベーション維持の方法に関する歯科衛生士への指導など、多岐にわたり活躍していただいています。
診療データの情報提供について
クラウドサービスを利用して診療情報を患者さんと共有することに対しての患者さんの反応、スタッフの労力、その効果などを教えてください。
現代のような情報化社会において、検査した資料を歯科医院だけが持つのは不公平だと考えています。KEEP28を達成するには、患者さんが自身の口腔内に興味を持ち、口腔内の状況を知る必要があるため、非常に有意義なサービスだと思います。
しかしながら、日々の業務の傍らこのサービスを利用するのは、スタッフに負担がかかるため、時期をみてしっかりと実践していきたいと思います。
今後の展望・展開について
今後の展望、展開についてお聞かせください。
現在、本院(やまねセンター歯科)と分院(やまねデンタルクリニック)が近い距離にあり、同じ流れで診療していますが、陣容と環境が整った際には、GP医院、小児医院、専門医院の増設を考えています。尚、やまねデンタルクリニックは、小児専門医院にする予定です。将来的には、この地域の皆さんが口腔の健康と歯の価値に理解がある街にしたいと考えています。
この目標を達成するためにやるべきことは山ほどありますが、それをやりがいとして、地域住民に信頼される歯科医療従事者になりたいと思います。