川原博雄先生:川原歯科医院
予防歯科の実践について
貴院がこれまでMTM(メディカルトリートメントモデル)を軸とした予防医療を実践してこられて社会に貢献できたと感じること、またこれから貢献できると思われていること、そしてクラウドサービスを利用することで新たに貢献できることについて、どのようにお考えでしょうか。
私は、2000年に日吉歯科診療所の熊谷崇先生のお話を聞き、脳天から稲妻が走るような衝撃をうけ、目指すべき歯科医療を見つけました。しかし、当時行っていた診療とは、かなりかけ離れていたために、なかなか診療システムを変更することができませんでした。2004年に思いがけず日吉歯科診療所を見学させていただく機会をいただき、「私もこんな診療所を作りたい。地域住民の口腔健康を世界一にしたい。」という思いに駆られました。酒田から帰ると直ちに診療所の改装を行い、2006年にOPセミナーを受講し、診療システムを変更、改革と改善を繰り返し、現在に至っています。
私には、「世の中を変える」というような大きな志はありませんが、「地域を変えたい」という思いがあります。その目標達成のための一つのツールとしてクラウドサービス導入を決めました。当院では、長年に渡る診療データを蓄積しています。そのデータから得られた口腔健康を守るための様々な情報を患者さんに提供してきたので、クラウドサービスの性能を最大限に活かすことができると思っています。
患者さんに、予防に対する興味・理解・実際の行動(定期的なメインテナンスや徹底したセルフケアの実施)を喚起するため、最も大切にされている働きかけを教えてください。
患者さんは何かしらの問題を抱えて来院されます。我々は、どうしても患者さんの表面的な問題にフォーカスを当てがちですが、患者さんに、「生涯、健康でありたい」という本来持っている願望に気づくように、歯科衛生士と共にお話をするようにしています。一般的な歯科のかかり方をした場合の日本人の現状を伝え、「これからどうなりたいのか。」を患者さんに問いかけています。患者さんに、治療に至った原因や将来について考えていただくことが、最も重要と考えています。
スタッフの採用・教育について
貴院のスタッフの採用・教育方法について教えてください。
私たちの診療室は、過疎化が進んだ田舎にありますので、スタッフ採用に関してはとても苦労しています。毎年募集をしているのですが、応募者が0人もしくは1人の状況です。そのため、応募者は基本的に雇用し、できるだけ長く勤められる環境づくりに努めています。入局後は、渉外・教育部署が作成する教育マニュアルに沿って教育が進みます。その中で、「私の思い描く歯科医療を実践する場が、川原歯科医院である。」ことを、スタッフに周知徹底し、私の思い描く歯科医療を明確に、繰り返し伝えることが、最も大切なスタッフ教育と考えています。
組織マネジメントについて
貴院では、組織マネジメントにおいて、ニュージーランドのラグビー世界最強チーム「マオリ・オールブラックス」のような強い統率が取られています。その環境の中で、スタッフ全員が一丸となって邁進できる秘訣を教えてください。
個々のスキルやフィジカル面においては南アフリカやオーストラリアの選手のレベルが高いのですが、チームで決められた規律や戦術を、全選手が徹底的に守るところが、オールブラックスの強さだと思います。スタッフの能力が低いと嘆く院長がいますが、私たちは、現有戦力でしか戦えません。一人ひとりの能力を最大限に活かすことができるように、スタッフの個性を理解し、適材適所にスタッフを配置し、そして、それぞれが十分に力を発揮できるように仕組みを作ることが院長の仕事と思っています。そのため、すべてのスタッフがとても大切な人材であり、診療所にとって必要な力と考えています。
予防型歯科診療所においてチームワークはとりわけ大切だと思います。川原先生が組織マネジメントする上で重要視されている「フェアであること」について詳しく教えてください。
「フェア」は、公平や平等と捉えがちですが、私は「公正」と考えています。フェアであるため、
- 役割分担を明確にすること
- 業務内容を明確にすること
- 院内情報を公開すること
に努めています。しかし、診療室は毎日変化し続けます。そこで、変更したり修正したりしたことを、文章にてスタッフ全員が共有するようにしています。すべてのルールは文書管理されており、部署内だけのローカルルールも認めません。ルール違反には、原因分析と改善プランの提出を義務付けています。つまり、フェアであることは、「徹底的にルールを作り、徹底的にルールを守らせる。」ことだと考えています。
診療室に問題が発生しない日はありません。「ルールがないのは経営者の責任、ルールが守れていないのはスタッフの責任」とし、「目的意識を持って曖昧をなくす」というポリシーで、日々の診療がよりスムーズに、より働きやすく、よりレベルアップできるように変化し続け、フェアであり続けたいと思っています。
今後の展望・展開について
美馬市にとって川原歯科の存在意義は高く、医院の存続や住民構成への変化への対応が求められると思います。医院継承、少子化、高齢化に対して具体的にどのような対応を検討されていますか?
私たちの地域は、半径10キロ圏内の人口が2015年末で39,661人、その中で65歳以上の人口が14,439人(36.4%)、15歳以下の人口が3,841人(9.7%)と過疎化と少子高齢化がかなり進んでいる地域です。その地域で、診察台15台、スタッフ24人、1日の患者数90~140人の診療室となってきました。過去2年間に来院した地域住民は3,908人で、地域住民の10%、15歳以下に限れば1,449人で地域の37%にあたります。今後、ますます過疎化と少子高齢化が急激に進むでしょうが、まだ診療所を利用されていない地域住民は多いので、本来の歯科医療の価値を伝え、30%の地域住民、50%の子どもたちが来院する診療所を目指します。
私は、診療室を「普通の会社組織」にしていきたいと考えています。個人に依存した組織には限界があります。現在、歯科医療に直接携わる部署のほかに、5S、文書管理、渉外教育を担当する部署や、総務、労務を担当するスタッフがいます。役割分担を明確にし、権限移譲を進め、あらゆるシステムを整備することが、診療所の永続的な組織づくりに繋がると考えています。
診療システムの変更から10年が経ち、少しずつ結果が出てきました。しかしながら、思い描く歯科医療の頂は、遥か彼方です。これからも、何事にも逃げずにぶれずに王道を進みたいと思っています。