晝間康明先生:OPひるま歯科 矯正歯科
晝間先生が歩んだ道、考え方について
晝間先生はいかにも都会育ちの2世歯科医師の雰囲気を感じさせます。その一方で骨っぽい性格の上に合理的な考え方には、意外さを感じました。このような晝間先生への印象は、先生の学生時代から現在に至る生き方への関心を抱かせますが、その様を教えてください。
私は、「すべてにおいて厳しい方が正しいのではないか」という考えを持っていたように思います。私は小学生の時に野球をやっており、中学校でも野球部に入部しました。当時の私が入部した野球部は、時代的にも大変厳しかったのですが、「そのような環境に身を置かないと自分という人間がきちんと育たないのではないか」という考えがどこかにあり、入部しました。大学生の時はスキー部に入りました。もちろん、スキーに興味があったからなのですが、それにも増して厳しそうでキリッとしていた先輩方に好感を持ったことが、入部して競技スキーを始めた動機でした。
新潟大学で矯正歯科を学ばれたのはお父様の影響でしょうか?
そうですね。幼い頃、医院で患者さんが父の治療結果に対して喜んでいる様子を見て、「こんなに人を喜ばせられる職業っていいな」という思いを抱き、歯科医師を目指しました。
大学卒業後は父の矯正歯科を継ぐつもりだったのですが、歯を動かし口腔内を0から再構築できる矯正歯科治療に魅力を感じ、新潟大学の矯正科に入学しました。そこには当時矯正歯科界から注目を集めていた花田教授がいらっしゃり、その医局の先生方も多くの論文を出されていたこと、父が新潟大学矯正科の先生方の技術力が非常に高いと言っていたこと、そして当時の医局員やOBの先生方と父が同じ研究会で勉強をしていたことが新潟大学を進学先に選んだ主な理由です。
晝間先生が予防歯科に興味を持ったキッカケについて
貴院は医院名を「ひるま矯正歯科」から「OPひるま歯科 矯正歯科」へと改称されています。医院の方向性が矯正歯科から予防歯科へ傾注してきた印象を受けますが、その理由を教えてください。
矯正歯科治療を学び歯科医師になった当初から、口腔内健康の基礎作りのため、きれいな歯並びを作り、それを守っていかなければならないと考えていましたが、矯正歯科治療中にむし歯や歯周病が重篤化して元に戻らない患者さんがいらっしゃいました。この経験から、予防歯科に関する知識を持たずに矯正歯科治療を行うのは許されないことだと思い、オーラルフィジシャンセミナーの受講など、予防歯科に関する勉強を始めました。
父は私に医院を継承した時、一度臨床を辞めたのですが、私がオーラルフィジシャンセミナーで学んだ予防法を実践していく上で大量のX線の撮影、矯正歯科治療前後のレントゲン分析を行う必要があったため、父にお手伝いとして復帰してもらいました。これらの作業は、矯正歯科治療だけでなく解剖学の知識を元に論理的に行うことで、整合性のある評価を出すことができます。そのため、デンタルスタッフや一般歯科の先生ではなく、経験を積んだ矯正医が行う必要があるため父に白羽の矢がたったわけです。
予防歯科を学んだことによる変化について
予防歯科を学んだことで、矯正歯科治療に対する意識やアプローチに変化はありましたか?
矯正歯科治療法の基礎は父の代で出来上がっていて、新しい治療法が出てきては廃れて元に戻ることの繰り返しと思えます。具体的には、当院で提供しているスタンダードエッジワイズテクニック(矯正医自らが患者さん一人ひとりに合わせてオーダーメイドしたワイヤー装置を歯に装着し、歯並びを整えていく方法)が完成してから、矯正歯科治療法は大きく変わっていません。現在の矯正歯科界に足りないのは、予防に関する知識や意識、そして同じフィロソフィーを持った先生同士の連携だと考えていますので、今後はそこをクリアしていきたいです。
歯科治療において、まずは硬組織をきちんとコントロールし、その上で軟組織をコントロールすることが大切です。軟組織のみをコントロールすれば歯並びが良くなり、生涯問題ないという情報はあまりに偏りすぎており、患者さんに誤解を招いてしまいます。口腔周囲の体操などで口輪筋を鍛え、口呼吸を抑制することに意味はありますが、患者さんが混乱してしまう可能性があります。
予防歯科の実践について
「ひるま矯正歯科」の頃、予防を目的に来院される患者さんはいらっしゃいましたか?
「ひるま矯正歯科」の頃も一般歯科の患者さんの診療を行っていたのですが、母親が矯正歯科治療のため当院に通われているのに、子どもは「歯並びの心配がない」という理由で別の医院に通っていることがありました。
矯正歯科のことだけを考えて診療を行うことは、私が目指す歯科医療の形ではありません。医院としてグループ・プラクティスを実践するため、診療システムや設備を変える必要性を感じ、医院名を「ひるま矯正歯科」から「OPひるま歯科 矯正歯科」に変更しました。以前は8~9割の患者さんが矯正歯科治療を目的にされていましたが、現在は約半数の患者さんが矯正歯科治療ではなく予防・メインテナンスを目的に来院されています。
GPと専門医の連携について
現在の医院体制になり、スタッフ構成に変化はありましたか?
一般歯科を提供していく内にGPが対応できる治療の限界を感じ、歯周病治療、根管治療、インプラント治療の専門の先生に非常勤で来ていただくことにしました。
専門的な治療が必要な場合はGPが専門医へ治療を依頼しています。歯科衛生士に関しては、既に矯正歯科治療と同時にメインテナンスを行っており、数が増えることはありませんでしたが、一般歯科に関する知識が深まり、技術は向上しました。歯周病治療は、さつき歯科の福井先生に担当していただいています。
また、福井先生には、二ヶ月に一度医院全体への講習として、新人歯科衛生士向けの歯周病学の基礎の指導を行っていただいています。専門的な治療だけでなく、歯科衛生士の初期治療やメインテナンス中の評価やサポートを歯周病学的見地から指導していただいています。
貴院での一般歯科医、専門歯科医、矯正歯科医の連携を教えてください。また、その連携の中でディレクションを執るのは矯正歯科医の晝間先生になるのでしょうか。
医院全体のマネジメントは私が行っていますが、成人の患者さんに対しては妻の直未先生が診断し、最終的な治療のゴールを設定して、各専門医に依頼しています。矯正歯科治療の初診の患者さんが成人の場合は、まずは口腔内の環境を整えてから矯正するべきことをお伝えします。直未先生と歯科衛生士が口腔内の状態を確認し、初期治療によりリスクをコントロールした後に矯正の精密検査を行います。その結果を基に、GPが主訴にあった歯並びの改善や歯の保存に関する判断を下し、私が矯正歯科医としてできる治療計画を立案します。
一方、20歳以下の患者さんに関しては、私がディレクションも行っています。なぜなら、現在は「昔と」比べてう蝕が少なくなってきているため、う蝕の管理よりきちんとした永久歯の萌出などの成長発育の管理が重要になっています。先天異常である歯並びには常に目を向ける必要があり、介入するタイミングや最善の治療法を考える必要があります。私の役割は、医院全体のマネジメント、矯正歯科専門医、20歳以下の患者さんのディレクションです。
診療データの情報提供について
貴院は、医院新聞、患者教室など患者さんへの情報提供や啓蒙にも力を入れていますが、その活動背景や成果を教えてください。
父の医院を継いだ時、医院の経営を改善するため、主に中小企業の経営者が通う経営塾に入りました。そこでは、患者さんに価値を伝え続けることが経営の基本であり、価値があるから経営が成立するということを学びました。そして、患者さんに歯科医療の価値を伝えるための広報誌として、2005年1月に「ひるまだより」を創刊しました。当初は、当院の治療の流れをわかりやすくお伝えするため、スタッフの矯正歯科治療の経過状況を写真と解説文を掲載しました。
また、医院にインターネットを導入した当初、父がホームページの質問コーナーで治療に関する質問に答えていたのですが、そのページを見て来院される患者さんが非常に多かったのを覚えています。当時はまだYahoo!知恵袋やAll Aboutもなかったためか、一日に一つのペースで質問が来るようになり、途中からは父の手が回らず私が大学の病院からお答えすることもありました。寄せられた多くの質問から、患者さんが何を知りたいのか、何に困っているのかがある程度わかりました。
これらの経験から、患者さんに正確な情報をわかりやすくお伝えするため、「ひるまだより」(http://www.hiruma.or.jp/clinic/newsletter)や「質問コーナー」(http://www.hiruma.or.jp/qabbs)には力を入れています。
晝間先生は診療情報のIT化に非常に長けていますが、診療情報をデータ化することの意義を教えてください。
大学院時代データベースを作ったことはなく、症例検討会で使用するためにFile Makerでレポート用紙のひな型を作成した程度でよく理解していませんでした。その後、日吉歯科診療所の熊谷崇先生がFile Makerでウィステリアを作成されたことを知りました。患者さんのデータを紐付けして管理し、矯正歯科治療の診断に関するデータベースを構築するため、File Makerの勉強を始めました。治療の依頼書や患者さん用のデータ作っている内に、院内の勤怠管理やマニュアルを作成できるようになりました。
予防関連の診療情報を複数医院でデータ化して共有することによって、予防歯科にどのような展望が開けてくると考えていますか。
各医院がデータの取り方を一元化し、共有することが大切です。私は、歯科医療はやりがいがあり、価値が高いものだと思っています。日々の診療は大変ですが、歯科医師になって良かったと思います。ただ、このままですと歯科業界自体がやりがいのないものになってしまう恐れがあります。本来あるべき姿を取り戻すためにも、きちんとデータで裏付けされた診療を実践しなければなりません。また、専門医が充分に力を発揮できる環境を作らなければならないと思います。GPがゲートオープナーとして患者さんの信頼を得て、専門医に正しい診療の依頼をすることで、専門医は力を発揮できると考えます。GPと専門医の連携を構築するためにも、データを蓄積することが大切です。
例えば、母子健康手帳はお口の中や全身の健康状況だけでなく、お母さんの心配ごとまで書いてあり、良いデータベースだと思います。様々な情報を生涯に渡って蓄積し、患者さん一人ひとりのリスクの予防・予測ができるところまで発展すれば、患者さんの理解も深まり、何が正しいのかが見えてくると思います。
歯科クラウドサービスについて
クラウドサービスを利用して診療情報を患者さんと共有することに対しての患者さんの反応、スタッフの労力、その効果などを教えてください。
サービス導入前から、当院では自費のメインテナンスの患者さんに紙の資料はお渡ししていました。紙の資料は電源を入れる必要がなく、すぐに確認できるため、紙の資料の方が良いとおっしゃる患者さんもいらっしゃいます。
ただ、メインテナンスや矯正歯科治療をスタートして口腔内への意識が高くなった患者さんが、矯正歯科治療中のメインテナンスの記録などの詳しい治療経過を確認するため、自らクラウドサービスの利用を希望されることが結構あります。
クラウドサービスの良いところは、どの端末からでもアクセスでき、自分の情報が確認できることです。今後は、データの量や質だけでなく、使いやすさ、セキュリティの更なる向上が求められます。
予防歯科の実践におけるデンタルスタッフの重要性について
歯科衛生士の採用・雇用・教育で方法、工夫などを教えてください。
日吉歯科診療所の熊谷崇先生からの好影響で、予防に力を入れている歯科医院で働くことを志している方にご応募いただいているため、現在雇用で困っていることはありません。
貴院は矯正歯科、メインテナンスなど自由診療が主体となりますが、顧客満足を医療面以外からアプローチをしているか否かを教えてください。
基本的な接遇はもちろんのこと、患者さんにとってわかりやすく意味のあるデータの作成・提供・蓄積に力を入れています。
今後の展望・展開について
貴院の短期目標(1年)長期目標(5年以上)を教えてください。
- 短期目標:
- 矯正歯科治療中心から予防中心の歯科医院に移行したことで、今後はご家族で来院していただけるような環境づくりに努めてまいります。現在、患者セミナーでは永久歯が生える前の6歳以下の子どもたちに「どのようにして歯を守っていくか」というお話をしています。20歳以下の患者さん向けの予防セミナーも実施したいと考えています。また、現在私は保育園の園医を務めており、子どもたちに歯に興味を持ってもらうため、歯科に関係する絵本の読みきかせをしています。小児歯科の予防で大切なことは、定期的なメインテナンス、親御さんの協力、将来のリスクの予測です。
- 長期目標:
- 20歳以下の患者さんのカリエスフリー率を90%以上にし、成人の患者さんの8028の達成率を向上させることです。