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食事回数は1日5回まで

 スウェーデンのある歯科医院では、むし歯予防のための教育として、子どもさんに5本の指を広げて食事の摂り方を教えているそうです。親指と中指と小指は3度の主となる食事、その間にある人差し指と薬指が間食で、合計5回です。それ以外の時間には食事を摂らないことを基本とし、ただし水はいつでも何度でも摂っても大丈夫です。この方法は、特に子どもたちにとって視覚的にもわかりやすく、日常生活の中で自然と習慣化しやすいようです。

 「え、1日5回も食事を摂ってもいいの?」と思う方もいるかもしれません。しかし、むし歯の原因になる飲食物(糖類やでんぷん)の摂取回数を1日5回以内に抑えていれば、むし歯になるリスクを確実に減らすことができます。その理由は、むし歯の発生プロセスにあります。むし歯の原因になる飲食物を摂るたびに、歯の表面の結晶が溶ける(脱灰)現象が起こりますが、その後、唾液の成分がこれを元に戻す(再石灰化)という働きをします。再石灰化が十分に行われるには、最長で2時間程度が必要です。この再石灰化の時間は個人差があり、唾液の量が多かったり、質が高かったりして再石灰化力の高い人は30分ほどで回復する場合もあります。一方で、唾液の量が少ない人や、その成分が弱い人は回復に時間がかかります。フッ化物を利用している場合も、再石灰化の時間が短縮され、歯にとってより有利になります。

 再石灰化力が低い人でも、例えば、朝7時に朝食(親指)、10時におやつ(人差し指)、13時に昼食(中指)、16時におやつ(薬指)、19時に夕食(小指)を摂ると、この間に十分な再石灰化の時間が確保できます。このリズムを習慣付けることで、むし歯のリスクを効果的に減らせるのです。「5本の指」のリズムを毎日の生活に取り入れてみましょう。

 また、これ以外に注意すべきポイントとして、「ダラダラ食べ」を避けることがあります。ダラダラと長時間にわたってむし歯の原因となる飲食物を口にしていると、再石灰化が完了しないまま次の脱灰が始まり、唾液の回復力が追いつかなくなってしまいます。例えば、同じ量の砂糖を含む食品でも、キャンディのように口の中に長くとどまるものは、アイスクリームのようにすぐに口から消えるものよりもむし歯のリスクが高まります。

 さらに、寝る前にむし歯の原因になる飲食物を摂ることも控えましょう。寝ている間は唾液の分泌がほとんどなく、再石灰化が十分に行われないため、脱灰が続いてしまいます。寝る前にお菓子やスナックやジュースを摂るのは避け、どうしても何かを食べたくなった場合には、むし歯の原因にならない食品を選びましょう。

 むし歯の原因にならない食品としては、チーズやナッツ、ゆで卵などが挙げられます。これらの食品は糖分を含まず、むしろ唾液の分泌を促して歯に良い影響を与えることもあります。特にチーズには、歯を強くするカルシウムが豊富に含まれているため、おやつとしておすすめです。


画像説明

写真はスウェーデンの子どもたちがクリスマスのジンジャークッキーを作っているところ。二人とも5本の指の写真も提供してくれました!


筆者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得