むし歯の結果と原因
前回 、新しい患者教育ツール、「むし歯のなりやすさチェック(通称:『デカゴンC』 )」(富士通Japan株式会社)に、「過去のむし歯経験」や「現在のむし歯状況」の項目を入れていることをご紹介しました。これらは、その人のむし歯のなりやすさ(リスク)を調べるのに参考になる指標ですが、病気の結果であって、原因ではないことに注意してください。前回から繰り返し述べると、リスクが変わらない限り、病気の結果はその人の将来のむし歯のリスクを端的に示しますが、上手にコントロールされていたり、意図せずリスクが変わってしまったりすると、この指標は役に立ちません。
例えば、「乳歯のむし歯が多いと永久歯でもむし歯になりやすい」というのは歯科の研究でよく調べられて分かっていることですが、乳歯の時にたくさんむし歯があったお子さんでも、ある日、リスクをコントロールして原因をなくすことに成功し、お口の中の環境がむし歯になりにくいものに変わると、むし歯のない永久歯を揃えることができます。裏返すと、「乳歯のむし歯が多いと永久歯でもむし歯になりやすい」という現象は、その子どもたちのむし歯の原因を突き止めずに放置されていることの表れでもあります。
では、リスクをコントロールするにはどうしたらよいでしょうか。そこで原因の登場です。原因を突き止めるためのリスク因子はたくさんありますが、宿主の因子、食物の因子、バイキンの因子の3つのグループに分けることができます。それぞれのグループには以下のような項目が入ります。
- 宿主の因子グループ(フッ化物の利用状況、唾液の量や質、歯の形)
- 食物の因子グループ(糖類、でんぷん、これらを飲食する回数やタイミング)
- バイキンの因子グループ(上述の食物から酸を産生するバイキン、酸性の環境が好きなバイキン)
これらのうち、最も影響力が高いのが、フッ化物の利用状況です。人によっては、これは原因ではなく、メリットではないかと思われるかもしれませんが、今やフッ化物を利用することが当たり前になっていますので、これを十分に利用していないことは不利であるとして原因に入れましょう。フッ化物の利用方法については以前にお話ししましたが、次回にもっと深く掘り下げます。
これらの3つのグループが重なり合うことがむし歯の原因です。よって、3つのグループが重ならないようにすることでむし歯のリスクをコントロールできます。
『デカゴンC』にはむし歯の結果と原因とその周囲にある間接的な原因の、合わせて10項目を取り上げています。デカゴン(英語で十角形の意味)の名前の由来でもあります。結果の項目と原因の項目、それぞれの特徴を混同することなく、これ以上、むし歯の繰り返しを予防するのに必要な原因除去療法をするために、原因の項目を調べてもらいましょう。それぞれの項目のスコアによって、ご自分の強みと弱みがはっきりしますので、無理や無駄のない個人に合ったむし歯予防プログラムを作るのに役立ちます。
写真説明
新しい患者教育ツール、「むし歯のなりやすさチェック(通称:『デカゴンC』)」(富士通Japan株式会社)のスクリーン画面。
筆者プロフィール
Makiko NISHI
西 真紀子 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)
1996年 | 大阪大学歯学部卒業 |
大阪大学歯学部歯科保存学講座入局 | |
2000年 | スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員 |
2001年 | 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務 |
2007年 | アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了 |
Master of Dental Public Health (MDPH)取得 | |
2010年 | NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長 |
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」) | |
2018年 | 同大学院博士課程修了 |
Doctor of Philosophy(PhD)取得 |