松野英幸先生:M,デンタルクリニック松野歯科
山梨県甲斐市で開業された経緯・動機について
甲斐市は私の故郷です。実家の家業は異なりますが、長男という立場から大学入学から16年ぶりに帰郷致しました。
開業の場所探しは、山梨県内隅々まで足を運び2年かかりましたが、最終的には子どもの頃から見慣れた山々が、実家から同じように一望できる近隣の土地に落ち着きました。
来院される患者さんのニーズの特徴や、診療傾向について
診療科目は予防歯科です。
開業から丸20年を経て、予防専門クリニックと認知されております。
県内は下より、隣接県からも予防を目的に来院される方がおり、健康観の高い方が大半を占めます。
当院では各種リスク検査にて個々のリスク評価を行い、歯周治療を要する方にはそれが完治に至るまでは、むし歯治療等は致しません。さらにメインテナンスは全て自費診療ですが、すべての方に躊躇なくお受け頂いております。
歯科も全身との兼ね合いを要求される時代になりましたが、基礎疾患(高血圧症・高脂血症・糖尿病等)を抱えている患者さんへの診・診連携について
10年前に比べ、医科の先生からの依頼が随分増えました。それはひとえに、歯科疾患と全身疾患との関連が、深く広く医科領域で認識されたからに他なりません。糖尿病専門医や循環器専門医、産科専門医などが、歯周治療や検診の目的で患者さんを送って来られます。これまでは歯科から医科への依頼が主でしたが、今や逆の流れが日常的となり医科・歯科と分けて考えてはいられない現状です。象徴的な現象は、紹介元の先生自らがメインテナンスで通院される方が増えつつあることです。看護師も含め、当院は医療従事者、学校の先生方の受診が多いクリニックです。
かかりつけ医や定期管理が歯科医院では常識になりつつありますが、患者さんのライフステージ(年齢リスク)に合わせた治療・予防の実践について
『予防医療を日本に根付かせる』ことが、私の歯科医師としての使命です。
そのための手段として、次の世代(子どもたち)の健康感を育むために、お母さん方を教育することが最重要のテーマとしています。
定期管理型予防という言葉を目にしますが、私が目指す予防社会は、『健康でいたい!』『美しくありたい!』という欲望に後押しされた、自発的参加型予防です。
ですから、私が医院内・外で行う予防セミナーを通じてご自身の将来に興味を抱き、受診をされた方には年齢に合わせて、再度丁寧な(時間を惜しまない)説明を行います。
ここで、重きを置くことは、『将来どうなりたいか?』という目標をお持ちいただく事です。目標さえ定まれば、あとは知識を提供しつつ受診者に寄り添うだけで十分です。
予防歯科に力を入れようと思った“きっかけ”や“動機”について
口腔外科の医局に在籍していたころは癌の研究に勤しみ、開業の意思は全くありませんでした。
それを一次医療に目を向けさせてくれたのは、山形県の熊谷崇先生のご講演でした。日々の臨床から抽出される臨床データの蓄積と解析が、とても貴重なエビデンスとなって再び患者さんにフィードバックされる。将来の医療の有様は予防しかないと実感しました。
病気の治療ではなく、病気にさせない医療の凄みが、一瞬にして『予防こそ歯科医師としての道』だと気づかせてくれました。
一般的な予防歯科よりMTM(メディカルトリートメントモデル)の優れている点について
定期的にクリーニングを行うことだけでは予防歯科とは言えないと考えています。個々の発症リスクの診断に始まるメディカルトリートメントモデルは、口腔衛生指導、歯周治療、硬組織の治療、メインテナンス等すべて、個々の発症リスクに基づいて行われます。言わばテーラーメイド医療です。
そして、日々の臨床から抽出されるデータの蓄積と解析が、診療の質の向上の歯車を回し続け、真の患者利益を生み出します。
メディカルトリートメントモデルは、口腔の健康に支えられた豊かで幸福な人生を提供できる医療だと確信しています。
貴院はお子様、女性会員専用のメインテナンスルームがございますが、導入の“意図”や患者さんからの“反響”について
冒頭でご紹介致しました当院の最も重要なテーマ『子どもたちの健康観を養うために、お母さん方を教育する』を実践すべく特別な空間を設けました。
このメインテナンスルームにチャイルドルーム(託児室)を隣接させ、5歳以下の兄弟でも同時に受診できる体制を整えております。当院の所在地は、開発から40年以上が経過した、高齢者の多い住宅地です。しかし受診者の約40%が10才以下のお子さん、30代前後のお母さん世代も同じく約40%、この数字が取り組みの成果を示しています。
一般的に継続してメインテナンスに通院してもらうことは難しいと言われています。患者さんに継続的に通ってもらうために、心がけていることについて
初診時のカウンセリングで、『将来どうありたいか!』『どんな自分でいたいのか!』といった目標を明確にして頂いております。『どうすれば健康を維持できるのか、それによってどのような利益がもたらされるのか。』を理解して頂く。またご質問にも時間制限を設けず徹底的に応じます。将来の自己実現への興味が、この取り組みにより生まれ、メインテナンスの継続に通じています。当院のメインテナンスは医療制度に則り、全て自費診療です。歯の価値に気付いていない方にとっては高額でしょうが、このカウンセリングにて目標が定まった方には、決して高いハードルではないのです。
貴医院のスタッフ構成と、スタッフ採用・教育・マネジメントについて
- 歯科医師3名(口腔外科1、矯正1、一般歯科1)
- 歯科衛生士10名
- 歯科技工士1名
- 歯科助手・受付6名
当院では、『自ら考え行動できること』『自立』が求められます。
新入局された方には中々難しい事ですが、歯科衛生士は医療の教育者ですから、受診者を教育、導くには自らが学び続けねばなりません。この点は、医師と全く同じです。
スタッフ教育は継時的に院内にテーマを掲げ、それについてのプレゼンテーションの機会を設けています。プレゼン作りには多くの下調べが必要となり、よい自習の機会を産みます。入局者のほとんどはスライドなど作成したことはなく、慣れるまでは大変な労力を要します。このような職場ですから、スタッフを採用する要件は、スキルアップの意欲があるか?学び外しの意欲があるか?の2点を重視しています。
患者さんとのコミュニケーションで心がけていることについて
単なる説明ではなく、気付き、理解、興味、希望を抱いて頂くことがコミュニケーションの目的となります。よってその時間には制限を設けず、また回数も重ねます。ラポールの形成無くしてメインテナンスの継続、自己実現には繋がりませんので、担当医・担当衛生士での対応が必須となります。全ての診療室が個室です。ユニットは回転して受診者と対面して対話をすることが出来るのも、コミュニケーション、ラポールの形成を開業当初から重視していたからです。
臨床現場での喜びについて
定期的にメインテナンスをお受けになられている方々から、『当院と出会えてよかった』とお言葉を頂くときです。
休日の過ごし方について(趣味、習慣など)
早朝6kmのウォーキングが日課です。海外でも欠かすことはありません。
約1時間、イヤホンも付けずにひたすら歩く貴重な内省の時間です。このときいろいろなアイデアを思いつき、仕事に繋がっています。
歯科医師になろうと思った動機について
父の幼馴染の親友が歯科医師でした。その方の姿は、子どもの頃の私に品格がある凛とした紳士として写り、歯科医師になることを夢としました。
歯科大での学びや勤務医時代の経験から、現在の臨床に活かされていることについて
名古屋大学口腔外科に入局し最初に担当した患者は、末期がんにて余命幾ばくもない方でした。舌癌が頚部リンパ節に転移し、転移巣もさらに拡大。血管をも巻き込み、突然、頚部皮膚潰瘍面に出血を来すほどの重症でした。油断できない状況が数か月も続き、その間医局に寝泊まりしていたのを覚えています。その方がお亡くなりになったとき、通常は看護師だけで行っているご遺体の拭き清めに指導医の計らいで加わらせて頂きました。
駆け出しの頃のこの体験が、『医療はボランティアである』という概念を根付かせてくれています。
貴院の今後の展望・展開について
開業して丸20年、当初からメインテナンス目的で通われている方を筆頭に、徐々に皆さんのメインテナンス期間も長くなって参りました。短い期間では見えてこない臨床の結果を精査し、次の10年、20年の臨床の質に繋げていきます。
そして真の患者利益を提供できる予防医療クリニックを作り上げ、全国の同志と共に日本に予防医療を根付かせます。