電動歯ブラシは普通の歯ブラシより良いですか?
2年に一度、ドイツのケルンで世界最大の国際デンタルショーが開かれます。デンタルショーというのは、最新の歯科に関する材料や機器類が展示されるイベントで、歯科関係者がトレンドを掴んだり、企業や歯科医院の経営者などが商談を進めたりします。ケルンの国際デンタルショーは、世界中から約10万人が集います。
数年前、私はそこに参加する機会がありました。広大な会場に無数のブースがある中、長蛇の列を作るブースが2つ、いつ行ってもその行列が短くなることはありませんでした。2つとも最新の電動歯ブラシを展示する別々の会社でした。世界中でどれだけ電動歯ブラシが脚光を浴びているのかよく分かりました。
私が歯科医師になってからずっと、今でも患者さんに聞かれるのは「電動歯ブラシは良いですか?」という質問で、まだ電動歯ブラシがとても高価だった1990年代には、その答えは「普通の歯ブラシで磨ける人は普通の歯ブラシで十分です。でも、手が不自由な方は、電動歯ブラシをお勧めします。」というものでした。その頃の研究では、普通の歯ブラシと電動歯ブラシのプラーク(バイオフィルム)の取れやすさに違いが認められていなかったからです。しかし、その後、多くの質の高い研究結果が発表されてきて、2015年頃から答えも変わってきました。
大変信頼できるコクラン・レビューという論文から、電動歯ブラシと普通の歯ブラシの違いを見てみましょう。2014年にYaacobら英国のグループがその調査結果を発表しています。コクラン・レビューには一般の人向けに平易な英語で書かれたセクション(Plain language summary)もありますので、「専門家でないと。。。」と物怖じしなくてもいいですよ! 英語であっても、自動翻訳を使って読んでしまいましょう!
結論は、普通の歯ブラシと比較して電動歯ブラシを使用する方が、利点があるということでした。1〜3ヶ月の使用でプラークが 11% 減少し、3ヶ月の使用後で評価するとプラークは 21% 減少しました。 歯肉炎については、1~3ヶ月の使用で 6% の減少が見られ、3ヶ月の使用後に評価すると 11% の減少が見られました。 それ以上長期的な歯の健康に対する結果は不明です。
この結論には、56件のランダム化比較試験が含まれており、合計 5,068 人の参加者が電動歯ブラシまたは普通の歯ブラシのいずれかに無作為に割り付けられていました。ほとんどが回転振動作用モード(ブラシヘッドが一方向に回転し、次にもう一方の方向に回転する)を持つタイプでした。副作用について報告した研究はほとんどなく、あっても局所的で一時的なものでした。
このコクラン・レビューの結果を受けて、タイトルの質問を受けた時には、今は、私は「電動歯ブラシは普通の歯ブラシより良いですよ」とお答えするようにしています。今後も年々市場は拡大するとの予想がされているので、もっと一般化するでしょう。
写真説明
2019年の国際デンタルショー(International Dental Show)で、電動歯ブラシのブースに並ぶ人たち。
参考文献
- Heanue M, Deacon SA, Deery C, Robinson PG, Walmsley AD, Worthington HV, Shaw WC, Shaw BC. Manual versus powered toothbrushing for oral health. Cochrane Database of Systematic Reviews 2003, Issue 1. Art. No.: CD002281. DOI: 10.1002/14651858.CD002281. Accessed 15 April 2024.
- Fortune Business Insights. 電動歯ブラシ市場シェアと需要分析【2030年】
筆者プロフィール
Makiko NISHI
西 真紀子 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)
1996年 | 大阪大学歯学部卒業 |
大阪大学歯学部歯科保存学講座入局 | |
2000年 | スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員 |
2001年 | 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務 |
2007年 | アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了 |
Master of Dental Public Health (MDPH)取得 | |
2010年 | NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長 |
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」) | |
2018年 | 同大学院博士課程修了 |
Doctor of Philosophy(PhD)取得 |