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乳幼児にフッ化物製品をどう使う?

 6歳未満の乳幼児に対してフッ化物製品を使用する方法は、6歳以上の子どもや成人に使用する方法とは異なります。なぜなら、この年齢層では、歯磨き剤などフッ化物製品の誤飲が起こりやすく、体重に対するフッ素摂取量が成人に比べて多くなりがちで、顎の骨の中で生育中の永久歯に、歯のフッ素症(斑状歯)が発生する可能性があるからです。斑状歯は軽度の場合、エナメル質の白い斑点程度で、重度の場合は歯の表面に褐色の着色や穴が生じることがあります。ほとんどが軽度の白い斑点で済み、普通の生活を送る分には気にならないことが多いのですが、乳幼児のむし歯が激減している現在の日本においては*、斑状歯のリスクを取ってまでフッ化物を多めに使用する必要はないでしょう。フッ化物製品を安全に、そして効果的に使用するためのポイントは専門家たちによってよく考えられていて、下に述べるように簡単です。

 歯が生え始める時期(通常は生後6カ月頃)から2歳までのお子さんには、ごく少量、つまり米粒程度のフッ化物入り歯磨きペーストを使用します。フッ化物の濃度は950や1,000ppmのものを使ってください。3歳から6歳までは、濃度はそのままで、量をもう少し増やし、エンドウ豆一粒程度にします。これを1日2回、仕上げ磨きの時に使ってください。誤飲してしまってもかまいません。お子さんがペッと吐き出すことができれば、吐き出させてください。1日2回のうち、1回は必ず夜寝る前にしてください。

 その他にご家庭で使えるフッ化物製品として、フッ化物入りの洗口液があります。しかし、6歳未満の子どもさんは口腔の筋肉や神経がまだ発達途中であるため、しっかりとすすいで吐き出すことが難しく、洗口液を飲み込んでしまう可能性があります。これにより、過剰なフッ素摂取が起こり、斑状歯のリスクが高まることが懸念されます。そのため、国際的には6歳以上の方に対して使用が推奨されています。

 歯科の専門家が使用するフッ化物製品として9,000ppmという高濃度のフッ化物が入ったゲルがあります。これも誤飲に配慮して国際的には6歳以上の方に対して使用が推奨されています。さらに高い濃度である22,600ppmのフッ化物入りバーニッシュという製品は、フッ化物が体内で吸収されないという性質上、赤ちゃんにも使えます。しかし、赤ちゃんに使っても、ホームケアでのフッ化物入り歯磨きペーストに加えた効果は認められていませんし、日本ではむし歯予防用にバーニッシュを健康保険で使うことができません。結局、フッ化物入り歯磨きペースト一択になりますね。下のコラム記事も合わせてご覧ください!



注釈

*2022年の歯科疾患実態調査では、4歳児のむし歯のない者が100%。ただし対象人数は10人と少ないので注意。


画像説明

乳幼児ではフッ化物の使い方を慎重に!(イラスト提供:富士通株式会社)


参考文献


  1. Toumba, K. J., et al. “Guidelines on the use of fluoride for caries prevention in children: an updated EAPD policy document.” European Archives of Paediatric Dentistry 20.6 (2019): 507-516.

  2. 一般社団法人 日本口腔衛生学会, 公益社団法人 日本小児歯科学会, 特定非営利活動法人 日本歯科保存学会, 一般社団法人 日本老年歯科医学会. 4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法
    https://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/news/2023/news_230106.pdf

  3. 厚生労働省. 令和4年歯科疾患実態調査.

  4. de Sousa FSO, Dos Santos APP, Nadanovsky P, Hujoel P, Cunha-Cruz J, de Oliveira BH. Fluoride Varnish and Dental Caries in Preschoolers: A Systematic Review and Meta-Analysis. Caries Res. 2019;53(5):502-513.

筆者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得