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横浜歯科クリニック:石川洋史先生

ピンチをチャンスに変える

治療メインの診療スタイルから、MTM(メディカルトリートメントモデル)をベースにした予防型診療スタイルに変更して大きく変わった点は何でしょうか。

 患者さんの質や、求める内容が大きく変化しました。例えば治療メインの時は、主訴が「痛い・腫れた・取れた」に関する内容が大半でしたが、現在はそのような患者さんが大分減ってきた印象です。やはり健康意識の高い患者さんが増えてきたことを実感しています。当院の歯科衛生士もそのような患者さんと1日の大半を過ごすことにより、治療メインの時よりも大幅にストレスが減少していると言っています。また、アポイントのない飛び入りの患者さんがほとんどいなくなりました。

診療スタイルの変化により離れた患者さんもいらっしゃるかと思いますが、それに対する気持ちの焦り等などはなかったのでしょうか。

 最初は経営面が心配でした。やはり予防型歯科医院を目指すうえで医院によって様々なステージがありますが、例えば開業当初の私が予防型でできるかというと無理だったと思います。開業時の借入も多かったですし、その様な診療スタイルがあることすら知らず、当時はただ漠然と治療型で診療を行っていました。そして少しずつ経済的な体力もついてきてから予防型へ移行したという経緯がありますので、患者さんが減った時の不安はとても大きかったです。MTMを通じてコンセプトが合わなくなり離脱する患者さんや、Googleで悪い口コミを書かれたこともありましたが、ブレずにやっていると患者さんの数も安定してきて気にならなくなっていきました。
 また、コロナの第一波の時、もの凄い数の患者さんが減りましたが、ピンチはチャンスということで患者さん1人あたりのチェアタイムを長く取ることができるようになりました。現在もそれは継続しており、良い意味で医院が変化するきっかけになりました。

患者教育の実践と課題

横浜市栄区桂台は高齢者の多い街ですが、開業当初その場所で予防型歯科医院を経営されるという選択肢がなかったなかで、なぜスタイルを切り替えようと思ったのでしょうか。

 従来型診療時代の患者のボリュームゾーンは60歳の義歯で40%でした。それが10年経ち、現在70代がボリュームゾーンになっています。主訴が義歯の作成・修理の患者さんが多く、逆に言えば時間に余裕のある方々なわけです。そのため、きちんとMTMを理解されると途切れることなく通っていただけます。その患者傾向の特徴ですが、いま以上に歯を失い、義歯の面積が大きくなることに恐怖感を持たれている方が非常に多いです。そのため私としては、高齢者に予防歯科を定着させることは難しくなく、むしろ10~20代の学生、30代の働き盛りの方々に対して定着させることの方が難しいと感じています。それらの年代の特徴として、予防歯科に聞く耳を持たない、途中離脱や主訴だけの対応でいいという方が大半を占めています。
 前述の通り高齢者の予防歯科は取り組みやすいのですが、残存歯が少ない方が多いので、自由診療のメインテナンスに繋げることが難しくSPTに頼っているのが現状です。

自由診療のメインテナンスの特徴について教えてください。

 自由診療の場合は様々な検査が可能になります。それに比べ保険診療の検査は範囲が狭いです。例えば血糖値が高い方は、常に血糖値をモニタリングしますよね。血圧に不安がある方は、必ず血圧測定を定期的に行うかと思います。自由診療のメインテナンスもそれと同じで、なぜ唾液検査・口腔内写真・レントゲンを撮るかと言うと、モニタリングをするためです。比較できる様に継続的に取ることが重要なのです。1回きりではただの記念撮影で終わってしまいます。患者さんには、これは一喜一憂するためのものではなく、常に1年後どうなっているか、生活習慣が本当にうまくいってるかどうかを見定めるツールとういうことを説明しています。そういう形で常に色々な角度から検査をしてモニタリングをしていくと、到底保険の範疇じゃ収まらなくなってくるのです。今後は、このように自由診療で高いレベルの予防歯科に取り組みたいという患者さんを増やさなければならないと思っています。

日吉歯科診療所を訪れて・・

MTMで最も患者さんの抵抗を感じたところはどこでしょうか。

 やはり通院回数が多いという点です。初期治療やTBIを先行することで、患者さんの主訴とミスマッチが起こるケースが一番辛いところです。しかしながら、口腔内の環境を整えてから治療に入ることが健康を維持するうえで最良ですので、その点を理解していただくことに四苦八苦しました。それが当院が最初に直面した課題です、MTMは素晴らしい価値あるものですが、患者さんの主訴とは違う部分でスタートを切ることが多いため、そこをどうやって理解していただくかという点で現在も難しさを感じています。
 また、再評価のデータや検査結果などを次の予防に繋げていかないといけないのですが、そこが連動していかない時もありました。OPを目指すうえでMTMの入口と出口が最も難しさを感じたところです。

予防型歯科医院となり、先生と患者さんとの在り方が変わったかと思いますが、一方でスタッフと先生の在り方はどうでしょうか。

 まず従来の治療型から予防型診療を目指そうと思った時、日吉歯科診療所(山形県酒田市)で開催されているオーラルフィジシャン育成セミナーの受講を決め、衛生士とともに参加しました。受講に備えて、朝礼で熊谷崇先生(日吉歯科診療所院長)の著書の読み合わせを行いスタッフに理解を求めてきましたが、いざセミナーに参加しようとなった時、半数近くのスタッフが退職しました。
 2018年6月に初回のセミナーを受講しましたが、当日の夜、スタッフと食事をしていたところ、その場で1人のスタッフに「今後OP医院を目指すのであれば退職させてほしい」と言われました。実際に熊谷先生の話を聞き、そのスケールの大きさに圧倒されたのではないでしょうか。その後、詳しく話しを聞いたところ、アシスタント衛生士として働くだけで十分だったため、急に高みを目指すことになり、受け入れることが難しかったようです。結局、受講した6名のうち3名が退職しました。ただ今思えば、退職者が出るということは医院として前進している証拠だと思っています。さすがに当時は辛かったですが、新たな衛生士が加わり、現在活躍してくれている姿を見ると、進むべき方向に間違いはなかったのだなと、自信を持って言えます。

KEEP28を目指すために

10年前は予防歯科を自由診療で行うなんて、先生ご自身は思ってもみなかったのではないでしょうか。

 確かにそうです。当時、自由診療化で最もハードルが高いのが予防歯科だと思っていました。スタッフによく言いますが、患者教育は人間関係の構築ができていないとまず無理です。従来の治療中心の診療スタイルに比べると、MTMは通院してもらう回数が多くなります。逆に言えば、回数が多くなる程、患者さんとの信頼関係が生まれ、人間関係の構築がしやすくなるのです。やはり自由診療となると、満足度を高めなければならないというプレッシャーもある中で、スタッフと一緒に日々模索しながら取り組んでいます。

患者教育に加え、患者満足度という点で、予防歯科クラウドサービスの役割はいかがでしょうか。

 以前は良い面と難しい面の両方がありました。若年層向けのツールとしては問題ありませんが高齢者に対しては難しいと感じています。まず興味を持たれないことが多々あり、スマートフォンの操作もままならない方、ご自身のアドレスがわからない方がいる中でやりとりが上手くいかないため、運用面ですごく難しいと感じております。また登録が上手くいったとしても、ご自身でデータを閲覧できないことも少なくないため、その点でも難しさを感じています。
 ただ、システムがリニューアルされてからは使い勝手が良くなりました。なかでもデジタル問診票については、医療者が見落としがちな項目をかバーしてくれているので診療時に大いに役立っています。

5年後、イメージする歯科医師像はどうのような姿でしょうか。

 目標は保険診療からの脱却です。治療もそうですが、メインテナンスも保険だけでなく可能な限り自由診療を目指し、確かな質を患者さんに提供していきたいです。やはりそれが予防の原点だと思っています。また、患者さんと対話をする時間を増やしたうえで予防を行うと、当院のスタッフも生き生きして見えます。やはり保険診療の短い時間の中で、ただ作業に追われるだけでは、やりがいもなければ患者教育も難しいと思っています。
 例えば3ヶ月に1回メインテンスで来院された場合、残りの89日がセルフケアになります。予防歯科のコンセプトの1つが患者教育ですので、セルフケアの質を上げることがKEEP28を目指すうえでとても大切なのです。やはり患者教育は、患者さんと十分な対話をしないことには伝わりません。

先生による自己評価(5点満点)